Research Abstract |
宮城県中南部地域4水系の源流から下流の30地点に分布するヒゲナガカワトビケラ局所個体群の遺伝構造をAFLPマーカーおよびミトコンドリアDNA(COI領域)マーカーで解析し,局所個体群間の移動分散パターンを評価した。地点間の遺伝距離に基づく系統樹の結果から,源流の局所個体群が中流以降の大部分の個体群から遺伝的に隔離されていることが明らかになった。ヒゲナガカワトビケラは,雌成虫が河道に沿って産卵遡上する行動が観察されているが,本研究の結果は,風分散により方向性を持たない成虫の移動が起きている可能性を示した。また,ミトコンドリアDNAの塩基置換数から,源流の多くの個体に見られた遺伝子群は,中流以降に多く見られる遺伝子群から約70万年前に独自に進化した特殊な遺伝子群と推定された。源流域はヒゲナガカワトビケラに高い遺伝的多様性を残すために極めて重要な地域であるが,上述したように強く隔離されているため,個体群の存続が困難になっていることが明らかにされた。 成虫の分散能力が異なるウルマーシマトビケラ(分散力低い),ヒゲナガカワトビケラ(中),オオクママダラカゲロウ(高)の3種を対象に,規模が大きく異なる7つのダム(湖長=0.1〜5km)上下流間の分集団間の遺伝子類似性を調べた。その結果,分散能力が中程度で,一世代当たりの異動距離がダム湖の長さとほぼ一致するヒゲナガカワトビケラのみ,ダムにより地域交流が遮断されている可能性が示された。さらに,ヒゲナガカワトビケラの集団遺伝構造を感度良くかつ安価に調べることを可能にするマイクロサテライト領域を増幅するPCRプライマーを10ペア開発した。本研究により,局所個体群間の繋がりや移動分散パターンに関する理解を深めるツールとして,DNA多型解析は高いポテンシャルを有することが示された。
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