2007 Fiscal Year Annual Research Report
中世南都寺院圏における空間および歴史認識と、その叙述様式に関する文献資料学的研究
Project/Area Number |
06J05393
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Research Institution | Aoyama Gakuin University |
Principal Investigator |
大橋 直義 Aoyama Gakuin University, 文学部, 特別研究員(PD)
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Keywords | 南都 / 寺社縁起 |
Research Abstract |
本年度に特に研究を行なった対象は、大谷大学図書館に蔵される『興福寺縁起』である。本書は、これまでに知られていた興福寺縁起と大きく異なり、特に興福寺西金堂の縁起説の展開をあきらかにするにあたって、極めて重要な位置をしめるものである。 本書についてはこれまでもいく度か言及されることがあったが、まず、その本文が極めて難読のため、全文が紹介されることはなかった。それをまず『巡礼記研究』誌に翻刻した上で略解題を付したことは特に南都の寺社研究において有用なことであった。それにくわえ、2007年10月に行われた中世文学会において、その意義を詳細に論じた。具体的には、治承四年の南都炎上によって、興福寺西金堂本尊である丈六釈迦像も焼失したのだが、西金堂内における最重要法会である修二会を炎上以後も継続しておこなうために、意図的な言説改変がおこなわれた痕跡を見いだすことができるのである。このような事実は、治承・寿永の内乱という未曾有の危機をのりこえるべく、これまでの歴史的言説を意図的にあらためていこうとする姿と連なるものであり、その具体的一例を呈示しえたことの意義もまた重要である。すなわち、本年度の研究は、研究計画書に記したうち、特に「書物間における改変の様相・関連性のありかた」の考究に重点をおいたものであって、その成果は、現在準備している『建久御巡礼記』を中心とした南都諸寺社縁起説の相互連関性にかんする総合的研究の一階梯となるものである。
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