Research Abstract |
テレフタル酸亜鉛錯体([Zn_4O(OOCC_6H_4COO)_3],以下Znphdと略す)はベンゼン環を架橋配位子とする均一な細孔を持っており,気体の吸蔵・脱離,分子ふるい,化学反応の場,触媒などの様々な分野での応用が期待されている[1].私はこれまでに,トランス-1,4-シクロヘキサンジカルボン酸銅(II)(Cu_2(OOC-C_6H_<10>-COO); Cuchdと略す.)について,トルエン,四塩化炭素などを吸蔵あるいは脱離させた試料について熱的および磁性的挙動を研究してきた.本研究では,新たにZnphdを合成し,種々の量のベンゼン分子を吸蔵させた試料について,断熱型熱量計により低温熱容量測定を行い,粉末X線回折測定の結果と合わせて,Znphdの分子吸蔵特性について熱的性質および結晶構造から検討した.Znphd試料は,硝酸亜鉛・六水和物とテレフタル酸のN, N'-ジメチルホルムアミド溶液を攪拌しながら,少量のトリエチルアミンをゆっくり滴下することによって得られた白色の微結晶を,180℃で24時間真空加熱して得た.得られた試料は粉末X線回折および元素分析により同定した。熱容量測定には,真空蒸留したベンゼンを大気に触れさせることなく吸収させた試料を用いた.熱容量測定は研究室既設の断熱型熱量計を使用して13Kから320Kの温度範囲で行った.その結果,分子を吸蔵していないZnphdでは,測定全温度領域で熱異常は観測されなかった.一方,40%ベンゼン吸蔵試料では,140Kおよび210Kに熱異常が観測された.210Kの熱異常は140Kよりも大きい.これらの2つの熱異常は過冷却現象を示し,1次相転移であることが確認できた.飽和吸蔵量の11%,28%および40%のベンゼンを吸蔵させた試料での相転移に伴う過剰熱容量から,これらは熱異常の高温側と低温側の熱容量をなめらかに結ぶベースラインを引き,その差として求めた.約210Kに観測される熱異常は,吸蔵量の増加にともなって,転移エントロピーが増加するが,転移温度は変化しないことがわかった.一方,低温側の熱異常は,吸蔵量の増加に伴って,低温側に移動しながら転移エントロピーが増加することがわかった.このためこれらの相転移は別の原因によるものではないかと考えられる.また,これらの試料を真空排気して吸蔵されたベンゼンを脱離させると,熱容量は吸蔵する前の試料と完全に一致したことから,吸蔵・脱離が可逆的であることがわかった.一方,室温での構造解析によりベンゼン吸蔵前のZnphdの格子は立方晶で,a=25.644Åであることがわかった.また,ベンゼンを100%吸蔵させた試料ではa=25.796Åとなり,ベンゼン吸蔵によりわずかに格子が膨張することがわかった.
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