Research Abstract |
PVD法の一種である真空アーク蒸着法は,グラファイト陰極上に生じる陰極点から炭素粒子が蒸発する現象を用いた成膜方法であり,PVD法の中では高速成膜に適しているが,欠点として他のPVD法に比べて多くのドロップレットを生じること,膜の内部応力が大きいことなどが挙げられる. 一方で,他のa-C膜の合成方法に比べ,圧倒的な高密度および高硬度を示すa-C膜を合成できるため,真空アーク蒸着法に対し,様々なドロップレットの減少法が試みられてきている.近年,これらの真空アーク蒸着装置によるa-C膜のドリルや摺動部の保護膜などへの応用が始まったが,従来の磁気フィルタなどの手法は適切ではないと考えられる.加えて,真空アーク蒸着法の歴史において,ドロップレットの低減に主眼が置かれていたため,ドロップレットがa-C膜の機械的特性のどのような影響を与えるかについては,ほとんど報告が無い. よって,本研究では,ドリルや摺動部の保護膜として可能性を示すために,高成膜速度を維持したままドロップレットの混入を減らした真空アーク蒸着法を用い,ドロップレット数密度の異なるa-C膜の機械的特性について検討し,そのメカニズムを考察した. その結果,真空アーク蒸着法によるa-C膜は,ドロップレットフリーにすることを前提とした上で摺動部などへの応用が考えられてきていたが,本研究により,硬度・摩擦係数に対し,ドロップレット数密度60個/nm・mm^2以下のa-C膜であれば,熱(アニール,成膜時の基板温度,摩擦熱)による影響が大きく,ドロップレット数密度による影響は無いことが証明された.加えて,ドロップレット数密度58個/nm・mm2のa-C膜を373Kで10分加熱することで,真空雰囲気下の摩擦係数0.05を示した.
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