Research Abstract |
DNAナノテクノロジーの分野において,DNAタイルと呼ばれるDNA複合体を用いたアルゴリズミックセルフアセンブリにより,複雑なナノ構造物を設計・作製する方法が急速に発展している.しかし,DNAタイルの結晶成長過程においては本質的にエラーが発生しやすいため,高精度なDNAタイルナノ構造物はまだ実現されていない.本研究の目的は,DNAタイルセルフアセンブリの高精度化のために,結晶成長中に発生するDNAタイルのアセンブリエラーに着目し,エラーの測定,エラーの予測,エラーの抑制の3つの観点から,具体的な方法論を提案する. まず,エラーの定量的な測定手法について,「昨年度の研究実績の概要」で述べたように,DNAタイルから成るリボン結晶体の作成に成功し,従来では困難であったエラー率の定量的な測定が可能であることを示した. 次に,ナノ構造物のエラー予測手法について,従来の熱力学的モデルを拡張したシミュレーションモデルを提案し,その実用性について検証した.従来のモデルは,DNAタイル結晶体の成長過程において,いくつかの理想的な条件の下で結晶体のエラー率や成長速度を計算することはできるが,厳密に実験結果を予測することができない.そこで,DNA実験のプロトコルに沿ったより現実的な条件をモデル化することで,実験結果の解析・予測が可能であることを示した.2種類の異なるリボン結晶体を例題として,それぞれ実験とシミュレーションの結果を比較検討した結果,提案したシミュレーションモデルは,成長した構造体のエラー率・大きさ,ナノ構造物の成長開始温度および融解開始温度が推定できることが示された.そして,このモデルは,配列設計の妥当性や,最適な濃度・温度条件を決定するための設計ツールとして有用であることが期待される. 最後に,タイル成長時に生じるエラーを抑制するためのメカニズムについて,従来のDNAタイルでエラーの少ないナノ構造物を得るためには,理想的なタイルの濃度および温度の下で非常に長い時間を費やす必要があることが示されている,これを改善するために様々なエラー抑制原理が提案されているが,いずれも必要なタイルセットを増やさなければならないなど,実装上の難点がある.そこで,新しいエラー抑制方法として,DNAタイルを二層化し,上層タイルが下層タイルの粘着末端の結合を制御することによりエラーを低減するメカニズムを提案した.さらに,複層化したタイルの結合状態をマルコフモデルにより表現し,シミュレーションによりナノ構造物の成長過程を詳細に検討した.その結果,提案するメカニズムにより,高い成長速度を保ったまま,様々なエラーを抑制し,高精度のナノ構造物が作製可能であることを示した.
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