Research Abstract |
本研究は,チタン酸バリウム(BaTiO_3)ナノ粒子の誘電特性が粒子サイズによって変化する現象,いわゆるサイズ効果を解明するために行なった。まず,シュウ酸塩の2段階熱分解法という方法によって,不純物や欠陥濃度が極めて低いBaTiO_3ナノ粒子を作製し,誘電率の粒子サイズ依存性について検討した。その結果,粒子径140nm付近で比誘電率が約5,000という極大値を示すことを見出した。この理由を明らかにするために,BaTiO_3ナノ粒子が持つ粒子複合構造に着目した。高輝度放射光X線回折によって得られたBaTiO_3ナノ粒子の回折パターンについて精密解析を行なった結果,BaTiO_3ナノ粒子が内部正方晶層(バルク層),格子歪の傾斜層(Gradient-Lattice-Strain Layer,GLSL),表面立方晶層の3層構造で構成されることが明らかになった。このGLSLは正方晶から立方晶へ連続的に構造が変わる層で両者の相転移の過渡的な構造を反映し,結晶内ポテンシャルの平坦化により極めて高い誘電率を有すると推定される。一方,表面層は低誘電率の常誘電層であると考えられる。これら3層の誘電率を仮定し粒子全体の誘電率をシミュレーションした結果,粒子径140nmにおいて誘電率が極大を生じる現象を再現することができた。さらに,微粒子の誘電率は,表面立方晶層およびGLSL層の厚みにより支配され,立方晶層が厚い場合には,誘電率は粒子径の減少とともに単調に減少することが明らかとなった。GLSLの存在を考慮した複合構造モデルに基づくと,強誘電体微粒子の臨界径,誘電率の粒子サイズ依存性,誘電率の温度依存性,キュリー点の粒子サイズ依存性などの現象が一般的に説明でき,これまで不明であった強誘電体微粒子のサイズ効果が本研究により明らかになったといえる。
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