2006 Fiscal Year Annual Research Report
ロマン主義としての脱構築:デリダにおける政治的なものと神話的なもの
Project/Area Number |
06J05924
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
小森 謙一郎 慶應義塾大学, 文学部, 特別研究員(PD)
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Keywords | デリダ / フロイト / バッハオーフェン / 脱構築 / コーラ |
Research Abstract |
デリダの脱構築思想にみられる政治的傾向と神話的モチーフをロマン主義との関連のもとで考察する本研究の初年度にあたる本年度においては、鍵概念としてのコーラを軸に彼の議論の独自性を検証するための基礎研究を行った。初期から晩期にいたるまでデリダは繰り返しコーラについて論じてきたが、彼自身の発言によれば90年代以降の政治的考察はこの神話的形象を原理として展開されている。そこで、この神話的形象がもちうる政治性はそもそもいかなるものでありうるのか、コーラにまつわる思想史の文脈を踏まえて検討した。 理論的に基礎となる部分でとりわけ注目したのは、初期ロマン派の思考を踏まえつつコーラについて最初に包括的な考察を展開した『母権論』の著者バッハオーフェンと、その女性性をめぐる研究を独自に受け継ぎながら後世に大きな影響を与えた精神分析の父・フロイトである。両者はともに古代イタリアの芸術作品から深遠なインパクトを受けていたため、彼らの言説の当否を検討すべくローマにおいて必要な調査を行うとともに、二人を取り巻く思想史においてコーラというモチーフが占めうる位置を考察した。 その成果は論文「フロイトの欲望-あるいは抑圧された母の回帰」にて発表し、ここではフロイトの晩作『モーセと一神教』を主として読解しつつ、バッハオーフェンが提示しているコーラのモチーフがいかなる意味をもちうるのか、その歴史的背景に留意しつつ明らかにした。フロイトの思考はきわめて男性中心主義的な傾向を内在させているが、コーラによって示される女性的な形象を決して完全には排除しておらず、むしろそのことが精神分析を今日なお不可欠な理論たらしめているように思われる。また以上の考察をもとに、デリダがコーラという形象を扱うその仕方について、より包括的な検討を行うための論文を現在準備中である。
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Research Products
(1 results)