2008 Fiscal Year Annual Research Report
ロマン主義としての脱構築:デリダにおける政治的なものと神話的なもの
Project/Area Number |
06J05924
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
小森 謙一郎 Keio University, 文学部, 特別研究員(PD)
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Keywords | デリダ / フロイト / フィクション |
Research Abstract |
研究最終年度である本年度は、前年度までの研究成果を踏まえ、コーラ概念を軸とするデリダのロマン主義的政治思想の限界と可能性を考慮しつつ、総まとめとして近現代思想史の流れのなかで「脱構築」の位置づけを再検討した。 デリダの思想は従来「ボストモダン」や「フランス現代思想」という枠組みのなかで捉えられがちであったが、より長い思想史的射程をもって考え直す必要があるように思われる。初期ドイツ・ロマン派の人々にとってギリシアという契機が必要であったのだとすれば、デリダにとってはおそらくエジプトという契機が不可欠だったのであり、その事情と理由を明確にすることで「ロマン主義」という概念そのものを問い直すべく考察を進めた。 とくに注目したのは、本研究全体にとってひとつの突破口となったフロイトの『モーセと一神教』に対するデリダの考察であり、実際デリダはすでに60年代にこのテクストに関する重要な見解を公にしているほか、90年代にはより立ち入った分析を行なっている。問題となっているのは、一種のフィクションに関するデリダの問いかけであり、ここに「ロマン主義としての脱構築」のいわば原型を見出した。 具体的な成果としては、フロイトの言う「歴史小説」の可能性をデリダの分析を踏まえて考察し、口頭発表を行なった。フィクションというものは「虚偽」ではなく、むしろ「真理」を発見するために必要な契機である。ロマン主義的であると同時に脱構築的でもあるこうした考えが、フロイトにおいてどのように働いているのか、口頭発表に基づく論文のなかで明らかにする予定である。またその同じ考えがデリダにとっていかなる問題を提起することになるのか、本研究全体の成果を踏まえた論考を発表すべく準備している。これらの論文ないし論考は、デリダ研究に新たな光をもたらすことになるだろう。
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Research Products
(1 results)