Research Abstract |
細胞壁分解酵素リゾチームは,N-アセチルグルコサミンとN-アセチルムラミン酸が交互に配列する6糖鎖を認識し,非還元末端から4糖目(D環)でのみ位置選択的に加水分解する酵素として知られている.この位置選択性は,1.活性部位でD環の糖骨格のみが半椅子型配座を取ることで加水分解の活性化エネルギーが低下する歪みの効果と,2.生じたカチオン性中間体とアスパラギン酸残基の静電的相互作用による中間体安定化効果により説明されている.本研究ではこれらのことに着目し,糖の2,3位に2重結合を導入することにより,1.基底状態で半椅子型配座を有し,2.生じる中間体のカチオン中心を,導入した2重結合のアリル位とすることにより中間体安定化効果を付与した高活性グリコシルドナーをデザインした. デザインした2,3-不飽和アセチル糖は,従来の2,3-飽和アセチル糖と比較し,より効果的に活性化されることを明らかにした.さらに,この事実を活用し,1,2,3-不飽和アセチル糖をグリコシルドナーに,2,3-飽和アセチル糖をグリコシルアクセプターに用いた化学選択的グリコシル化反応が効果的に進行し,望む2糖を与えること,2.従来法では困難な3級アルコールのグリコシル化が,2,3-不飽和アセチル糖を用いることで効果的に進行することを見出した. さらに,2,3-不飽和アセチル糖の接触水素還元を,1.Rh/Al_2O_3を触媒に,酢酸エチル/トルエン混合溶媒を反応媒体として行うと2,3-飽和アセチル糖が,2.Pd/Cを触媒に,エタノール/酢酸を反応媒体として行うと,2,3-二置換テトラヒドロピランが,それぞれ化学選択的に得られることを見出した.
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