Research Abstract |
本年度は,昨年まで行ってきた高強度場におけるエタノール分子のC-C結合およびC-O結合の解離反応制御について,「レーザパラメータ」が「分子反応を決定する振動核波束ダイナミクスおよびドレスド状態形成」に及ぼす影響を具体的に解明することを課題とした。この課題を解決するためには,ポンプ-プローブ励起法が有効である。ポンプパルスにより励起されて進行する反応(核波束の動き)が,プローブパルスによって時間分解されるからである。そこで,様々なタイプのレーザパルス(パルス幅:10fs-100fs,波長:400nm-800nm)を用意し,ポンプ・プローブ励起法によるエタノール分子の結合解離反応を調査した。結果,以下に示す新しい知見が得られた。 (1)800nmレーザ場においては,基底反応ポテンシャル上に励起された振動核波束は,約180fs後にドレスド状態によるC-O結合軸方向のポテンシャルクロスポイントに到達し,そこで最も高い確率でC-O結合解離性ポテンシャルへの非断熱遷移が起こることが明らかとなった。 (2)ポテンシャルクロスポイントにおける非断熱遷移確率は,レーザ強度が強く,レーザパルス幅が長いほど高いことを明らかとした。一方で,ポテンシャルクロスポイント(ドレスド状態形成)はそれらのパラメータで大きく変化はしなかった。つまりC-O結合解離を促進させるためには,核波束をポテンシャルクロスポイントまで導く発展時間と,非断熱遷移を効率よく起こすための電界強度・持続時間が必要であることが実験的に明らかとなった。 (3)400nmレーザ場においては,約240-fs後にC-O結合軸方向のポテンシャルクロスポイントに到達するが,その非断熱遷移確率は800nmと比較して15〜2.0倍程度も上昇することが明らかとなった。 以上の結果から,レーザパルス幅や波長というパラメータに結合解離反応が依存する理由は,ドレスド状態形成への影響よりも,振動核波束のポテンシャルクロスポイントにおける非断熱遷移確率への影響がメインファクターであることが実験的に明らかとなった。つまり,「パルス幅を長くするとC-O結合解離反応が2.5倍程度まで高まる」、「波長400nmのレーザパルスを用いると,波長800nmと比較してC-O結合解離反応が1.5〜2.5倍まで高まる」という以前の我々の結果は,ドレスド状態形成を操作したのではなく,核波束の非断熱遷移確率を大きく制御した結果であるということが明確となった。
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