Research Abstract |
本研究では,遺伝子の発現クローニングや幹細胞の純化を行なう上で重要である,ヘテロな細胞集団から特定細胞を選別回収する技術の開発に取り組んでだ。その戦略は,接着細胞の剥離に使用されるトリプシンの効果が接着形状に応じて異なることを利用し,標的細胞と標的外細胞の接着形状を操作することにより選別回収する,というものである。 昨年度までに,細胞接着抑制分子であるポリエチレングリコール(PEG)を,光分解性基を介して固定化したケージド細胞培養基板を報告した。この基板は,PEGの光解離により細胞接着領域を遂次形成でき,さらに接着領域内に細胞を長期間保持することができることから,先述の戦略を実現するのに適している。 本年度は,まず,本基板上のPEGの固定化と光解離について,接触角測定,全反射赤外分光法,エリプソメトリー測定,原子間力顕微鏡観察により調べた。光照射前,基板には分子量12000のPEGが0.072 molecules/nm^2の密度で固定化されており,過去に報告された細胞接着の抑制が予想される値と同程度であった。その後,光照射により密度は0.006 molecules/nm^2まで減少したことから,固定化されたPEGの90%以上が光解離することがわかった。これらの結果は,本基板上において細胞接着性が変換されることが合理的であることを示している。次に,本基板上に接着した細胞の形状とトリプシンの処理時間について検討を行い,標的細胞のみを基板上へ留め,標的外の細胞を全て剥離できる条件を得た。そして,本基板上に形成したヘテロな一細胞のアレイから,接着形状を操作することにより,標的細胞のコロニーを単離することに成功した。本手法は,蛍光顕微鏡下ですべての操作を簡便に行える点から,汎用される限界希釈法やフローサイトメトリー法に代わる新技術して,普及することが期待される。
|