Research Abstract |
本研究では,線虫(C.elegans)のNaClとエサとの間に成立する連合学習(化学走性学習)に対する放射線応答を神経回路レベルで理解することを目的として,神経回路モデルを用いたコンピュータシミュレーションと放射線照射実験を進めている.本年度は,主に以下の内容を実施した。 1.NaClに対する化学走性学習の神経応答シミュレーション 前年度までに作成した化学走性に関与する神経回路の数理モデルを用いて,NaClとエサの化学走性学習前後の神経の内部状態を推定するシミュレーションを実施するとともに,反復実施した結果を定量的に評価する方法を確立した。本シミュレーションから,感覚ニューロンASEと介在ニューロンAIYの間の情報伝達が,学習前後で大きく変化することが推定された。また,生理学的手法による神経活動の計測が困難な介在ニューロンや運動ニューロンの中にも,学習に関与するものがいくつかあることが,新たに推定された。 2.放射線照射実験 (1)学習行動に対する放射線影響:線虫の全身にガンマ線照射し,NaClとエサの化学走性学習における放射線応答を調べた。この結果,放射線が感覚ニューロンを介して線虫の学習行動に影響を与えることを見出した。加えて,この学習行動の変化は,Gタンパク質γサブユニット(GPC-1)の局在する感覚ニューロンを経由し,限られたニューロンにより生じるものであることを明らかにした。 (2)運動に対する放射線影響:線虫の運動は,エサの存在下では,エサのない環境での5割程度に減速する。本実験では,エサがない環境での運動が,照射により(線量依存的に)減速すること,一方で,エサの存在下では,照射による更なる減速が生じないことを明らかにした。変異体を用いた検証実験から,エサと放射線の信号がそれぞれ異なる神経経路で受容された後に,運動制御を担う同一の神経回路に伝達され,統合・処理されている可能性が示唆された。
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