2006 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
06J06960
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Research Institution | Tokyo National Museum |
Principal Investigator |
宮崎 肇 独立行政法人国立博物館東京国立博物館, 文化財部, 特別研究員(PD)
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Keywords | 書風 / 筆跡 / 史料論 / 書論 / 能書 / 文書 / 記録 / 文字文化史 |
Research Abstract |
本研究の目的は、中世の書跡について、個々の書風・筆跡に関する研究にとどまらず、そうした書風・筆跡がいかにして生起したのか、その変化の要因は何か、その背景をも含めて明らかにすることである。文献史料と遺品の書風をあわせて検討することにより、ひろく文字文化史的な視角のもとに、書跡と当該期社会との連関を見出したいと考えている。それがひいては時代の推移に伴う書風・筆跡の変化を知る指標を提示することとなり、その作業を蓄積することにより、文字の書風による資・史料の年次比定をもある程度可能ならしめ、文字の書風を「史料」として利用する方途もひらけるものと考える。 本研究は、大きく二つの内容に分けられる。一つは、「能書の家」世尊寺家の動向を中心とした中世書流の展開を跡づける、いわば「能書」論というべきものである。いま一つは、書風・筆跡の情報を史料学的に分析する試みである。なお、上記のような研究を行うため、特定の筆者の手になる文字を集字・図表化し、比較検討することで、個々人の筆跡を確定する、という方法をとる。また、史料群内の秩序にしたがった古文書学的アプローチも併せて行いたい。書風・筆跡研究の方法論は未だ確立されていないが、同時にその方途を模索してゆくことも本研究の課題である。 如上の問題関心にしたがい、本年は文書・記録調査や基礎的データの収拾につとめた。まず、「能書」論に関わるものとしては、尊円親王の『入木口伝抄』の略本である四天王寺国際仏教大学所蔵『順朱深秘抄』について分析し、同類の書論書の中では最古本のひとつであることを確認した。他方、史料論にまつわるものとしては、「東寺文書」の翻刻・紹介を中心に作業を進め、その結果を論文化した。紙背文書の分析から永観文庫所蔵『東寺長者補任』の筆者を確定し、鎌倉後期における東寺寺僧による文書管理のあり方を明らかにした「寺院文書の集積と供僧」や、藤原定家の『明月記』の断箇を集成した「『明月記』断簡集成」(『明月記研究提要』)がそれに含まれる。またそれ以外にも、『鎌倉遺文』未収録「東寺百合文書」や『勘仲記』の翻刻紹介作業も引き続き行った(『鎌倉遺文研究』第17・18号、2006年4月・10月)。
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Research Products
(4 results)