2008 Fiscal Year Annual Research Report
ケアの社会化とジェンダー一男性ワーカー参入以後の介護現場をめぐって
Project/Area Number |
06J07532
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
山根 純佳 Hitotsubashi University, 大学院・社会学研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | ケア / 介護 / ジェンダー / ホームヘルプ労働 / エージェンシー / 社会変動 |
Research Abstract |
今年度は「行為主体性(エージェンシー)」概念にもとづく分析とおして、構造的制約のなかで行為者の能動性に注目することで、性別分業が家庭から労働市場へと拡大していくなかで、従来のジェンダー関係が再生産されるだけでなく、変動する可能性について考察した。従来のジェンダー論では、性別分業を物質的資源の男女間の不均衡な配分をさす家父長制構造決定論や、ケアの価値を内面化した女性の選択という主体選択論という対立する説明が併存してきた。それに対し本研究では両者の限界を乗り越え、女性、男性行為者の双方を「構造的制約のもとでよりよい状況を求める行為者」ととらえ、家庭、労働市場において性別分業が変動する可能性について考察した。それを明らかにしたのが、主婦によるワーカーズ・コレクティブの実践、女性職に参入した男性ホームヘルパーの実践についての事例研究である。前者をめぐっては、介護保険制度移行、経済的資源の増加と「プロ」という言説的資源を獲得したワーカーズ・コレクティブのメンバーが、より自律的な労働を求めて組織のなかで交渉する過程について考察した。これは、労働市場における女性ケア労働者が「社会の嫁」にとどまらず、高い交渉力をもち、より権限と自律性をもった労働の場を獲得していることの証左といえる。他方男性ホームヘルパーをめぐっては、「ケア=プロ」という言説が従来のジェンダー規範を変更する男性の言説資源となっている。一方ホームヘルプ労働の低い報酬という経済的資源は、男性がホームヘルプ労働から撤退する動機となり、女性職としてホームヘルプ,労働を再生産する契機となっている。以上の考察から本研究では、介護の社会化が「女性=ケア労働者」という従来のジェンダー構造を変動させる可能性をもちながらも、低賃金という構造によって、介護が女性職として再生産されていることを明らかにした。
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Research Products
(2 results)