Research Abstract |
本年度は,手続的記憶の統合と定着における睡眠の機能について,睡眠をはさんだパフォーマンスの向上(1),パフォーマンスの向上に関連する睡眠段階(2),睡眠中の脳波活動(3)について,行動指標および脳波活動の分析により,精神生理学的に検討した. (1)視覚運動学習課題(回転図形描写課題)を実施し,睡眠の効果を検討した結果,新規に獲得させた課題の成績は,覚醒していた群よりも睡眠をとった群の方が課題成績の向上が高く,20.1%もの技能の向上が認められた.学習日に先立ち獲得させておいた技能については明瞭な群の違いはみられなかった.睡眠は,特に新しく獲得する難易度の高い視覚-運動技能の向上に効果のあることが示された. (2)技能向上と睡眠変数の関連を検討した結果,ノンレム睡眠段階2と向上率との間には負の相関関係,徐波睡眠との間には正の相関関係がみられた.運動技能学習とその基礎を成す手続的記憶の再構築過程には,複数の睡眠段階が関与することが示唆された.睡眠段階を修飾する脳波活動に着目し詳細に検討する必要があると考えられた. (3)睡眠紡錘波を2種類(Fast SpindleとSlow Spindle)に分類し,各睡眠紡錘波の活動性を,学習夜と非学習夜とで比較検討した.その結果,成績の向上率が高いほど,Fast Spindleは終夜を通じて高密度,高振幅,長持続であり,新しい学習を行った後の睡眠中では行わなかった夜よりも,高振幅,長持続であった.Fast Spindleの発生機構である視床-皮質経路は,睡眠維持という役割を果たす一方で睡眠中に進行する脳の可塑性にも寄与していると考えられた. 以上を踏まえ,最終年度となる来年度は,Fast SpindleおよびSlow Spindleの電流発生源を分析し,視覚-運動学習に関わる電流発生源についてさらに検討を進めたい.
|