2006 Fiscal Year Annual Research Report
中世後期フランドル都市における宗教活動と宗教心性 -ブルッヘの教会と兄弟団から-
Project/Area Number |
06J08512
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
青谷 秀紀 大阪大学, 大学院文学研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 中世 / フランドル / 宗教 |
Research Abstract |
本年度は、中世後期フランドル都市において、死者の記憶を媒介としていかなる社会的結合関係が築かれ、これが都市民のアイデンティティのあり方にいかなる影響を及ぼしていたのかを明らかにしようとした。またこの際、死者記念から浮かび上がる社会関係の静的な側面のみならず、現実の政治的・社会的変動のプロセスにおいて死者の記憶がどのように取り扱われ、これをめぐって象徴的な権力闘争がいかに繰り広げられたのかについても考察を加えた。とりわけ焦点となるのは1436年から2年間続いた都市ブルッヘによるブルゴーニュ公家への反乱である。反乱鎮圧後の1438年、シント・ドナース教会の新参事会長に君主の弟が選出され、入市式が執り行われたが、ブルッヘの都市エリートのネクロポリスである同教会に君主家系の者が送り込まれた意味を、入市式やその後に行われた死者典礼、そしてこれと同時に行われた君主側戦死者の死者移葬の分析などから明らかにした。その際ブルッヘにて現地調査を行い、刊行史料とともにブルッヘ市立図書館所蔵の『フランドル年代記』写本なども閲覧し、またルーヴァン・カトリック大学所蔵のR・ド・ケイザーによるジント・ドナース教会をめぐる未刊行のプロソポグラフィー研究の成果をも参照した。こうした分析により、君主家系が教会支配と死者の記憶の管理を通じて都市との支配関係を結び、都市民のアイデンティティに重要な作用を及ぼそうとした過程が明らかになった。なおこの成果は、2006年11月3日の京都大学西洋史読書会大会において学会報告の形で公表された。また上記の現地調査の際、文書史料の欠落を補う歴史叙述史料の網羅的調査の必要性から上記の『フランドル年代記』群やその他修道院年代記などの刊行本および未刊行写本の調査を行ったが、その成果を活かし、都市民の記憶文化のあり方を明らかにした論稿も発表した。
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Research Products
(1 results)