2006 Fiscal Year Annual Research Report
ニーチェ哲学の通時解釈を手がかりとした近・現代におけるニヒリズムの考察
Project/Area Number |
06J08517
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
竹内 綱史 大阪大学, 大学院文学研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 左派ニーチェ / ウィリアム・E・コノリー / アイデンティティ / ニヒリズム / 実験哲学 / 反省 / 批判理論 / 系譜学 |
Research Abstract |
今年度の研究実績は以下の二点にまとめられる。 1.「左派ニーチェ」について 英米の政治理論のなかでポスト・リベラリズムの源流としてニーチェが注目を集めており、一般に「左派ニーチェ」と呼ばれる潮流を形作っている。その潮流を代表する政治理論家ウィリアム・E・コノリーは、存在論的に多元論を採るニーチェこそが「文明の衝突」「多文化社会」「アイデンティティ・ポリティックス」という現代の状況に最もふさわしい哲学者であると論じている。今年度、本研究ではそうした解釈を受け止めつつ、ニーチェ哲学自体の中でいかにそうした問題を位置づけうるかを考察した。閉じた価値体系の中で人々が生きていた時代はもはや過去のものであるが(「神の死」)、そのような価値体系を求める心性はいまだ根強く(「奴隷道徳」)、挫折を運命づけられたそのような心性は(「ニヒリズム」)、暴力的に自己の価値体系の至高性を主張するに至る。それに対しニーチェは、日々の生活の中でより多くの価値体系を生き得るような倫理的感性を涵養すること(「実験哲学」)を説くのである。 2.「反省」をめぐる批判理論と系譜学 初期の著作『生に対する歴史の利害』の中でニーチェは「批判的歴史」という独自の立場を発見していたが、それは一種の「批判理論」として実践的な関心を有している。すなわち、自己反省へと人々を誘導する理論である。現代ではハーバマスの批判理論とフーコーの系譜学が「反省」をめぐって有力な議論空間を形成しているが、前者は公共的共時的反省(「討議倫理」)に、後者は私的通時的反省(「生政治」)に、射程を広げている。それに対し、「批判的歴史」から「実験哲学」を経て「系譜学」へと続くニーチェの批判的思考は、個々人の反省力を強化することによる社会の変様を志向している点で、歴史全体(「精神」)の進歩から個々人の変様を考えるヘーゲルと共に、両者の「反省」を媒介する位置にあるのである。
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Research Products
(2 results)