2007 Fiscal Year Annual Research Report
ニーチェ哲学の通時的解釈を手がかりとした近・現代におけるニヒリズムの考察
Project/Area Number |
06J08517
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
竹内 綱史 Osaka University, 大学院・文学研究科, 特別研究員(PD)
|
Keywords | 自由意志と決定論 / 多元論的卓越主義 / 実験哲学 / ニヒリズム / 自由精神 / 中期ニーチェ / 『人間的、あまりに人間的』 / 自然主義的両立論 |
Research Abstract |
今年度の研究は、ニーチェの「自由」論を中心に進められた。 近年、研究者の間でニーチェ哲学に潜む「パラドクス」が取り沙汰されるようになった。ニーチェは「自己創造」を称揚し「いかに本当の自分になるか」を繰り返し問う一方で、「運命愛]が最高の立場であり自己が別様であり得ることを望むのは「弱さ」であると非難する。この二つの主張は、少なくとも一見するところでは、調停不能のよう、に見える。そしてそれぞれは、自由意志と決定論をめぐる形而上学的自由の問題と、抑圧と解放をめぐる政治的自由の問題という、互いに交差することの少ない「自由」に関する議論の中に別々に位置づけられている。自己創造の問題はポスト・リベラリズムの多元輪的卓越主義として政治哲学の文脈で盛んに引照されており、運命論は自然主義的両立輪として自由意志をめぐるディベートに顔を出している。 この「パラドクス」は、一般に中期ニーチェの開始に位置づけられる『人間的、あまり人間的』(1878-80)で「自由精神は自由意志を否定する」という形で初めて登場する。まだ荒削りとはいえ、同書でニーチェは「自由意志か決定論か」という問いの立て方を否定し、「人間」と呼ばれる存在者に普遍的かつ本質的に備わった「自由」の能力ではなく、個々が涵養すべき「自由」を説く。つまり、形而上学的自由の問題を、政治的自由の問題系へと置き移すのである。同書の自由論はまた、初期以来のニヒリズムという問題意識や批判的理論と個のあり方という問題を引き継いでおり、また、次著『曙光』(1881)以降の「実験哲学」を準備するのである。
|
Research Products
(4 results)