2006 Fiscal Year Annual Research Report
選好の主体間依存性、あるいは社会的地位選好の存在と経済成長の関係についての分析。
Project/Area Number |
06J08688
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
川元 康一 大阪大学, 大学院経済学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 社会的地位選好 / 内生的経済成長理論 / 人的資本 |
Research Abstract |
1.経済主体が、自身が他者と比較してどれだけ多くの人的資本を保有しているか(どれだけ教育を受けているか)、ということに関心を持っている、すなわち地位選好が存在することの含意を、経済成長理論の標準的フレームワークの一つである宇沢=ルーカス型モデルを用いて分析した。宇沢=ルーカスモデルのよく知られた性質に反し、地位選好の存在下では一定率の労働賃金課税は資源配分に対して中立ではなくなり、しかも人的資本蓄積を促進する効果を持つことが明らかになった。すなわち、地位願望の人的資本促進効果を賃金税率によって調整できることになり、賃金課税のみで人的資本の財生産に対する外部性を補正し効率的な資源配分を達成できることになる。これは、既存の宇沢=ルーカスモデルにおける最適政策に関する研究では、労働賃金課税に加えて人的資本補助金も用いなければ効率的な資源配分は達成できない、とされてきたことと対照的である。また、先行研究のように賃金課税と人的資本補助金の併用によっても最適資源配分は達成されるが、最適な補助金の符号(人的資本蓄積を促進するか抑制するか)は、地位願望の強度と人的資本外部性の度合いの相対的な強弱に依存することが示された。 2.「自身の所得の社会平均に対する比」に基づく社会的地位への選好の存在が所得不平等動学に対して持つ影響を、理論モデルを用いて分析した。各経済主体は「平均所得が上昇したときに自身の所得を増加する意欲がわくタイプ」か「平均所得の下落により意欲がわくタイプ」に分類されるが、前者によって構成される経済では所得不平等は時間を通じて縮小してゆき、後者によって構成される経済では不平等度は拡大していくことが示された。地位願望そのものは「競争心」と見なせるが、その存在のみでは相対的に貧しい家計が豊かな家計に追いつくとは限らないことになる。
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