Research Abstract |
知的障害者が実際作業場面で示す作業遂行困難性について,その原因を検討した。知的障害者については,実際場面における認知・注意特性と作業特性の関連についての検討が不十分である。そこで著者は,これまでの著者の研究から示された「実際環境で知的障害者が遂行困難な手技作業課題」を適用し,課題遂行時の課題要件,動作,眼球運動,の分析から,課題(特に二重課題)遂行困難性の原因を検討した。 知的障害者1名(28歳,男性,右利き,裸眼で生活に支障のない視力,全体IQ=35程度(言語性IQ=48,動作性IQ=40弱))を対象に,前述の手技作業課題を遂行させた。なおこの実験に際して,インフォームドコンセントは得られており,実験者と実験参加者の間にはラポールが形成されていた。課題は小さなプラスチックバッグ(100mm×60mm)にキャラメルを2つ挿入し,シーリングするものである。健常者であればほぼ全ての者が遂行可能であるが,調査結果では73.9%の知的障害者がこの課題を遂行できなかった。知的障害者は課題の製品の精度が低く(巧緻性が低く),遂行速度が遅い。 結果,巧緻性の低さに2つの原因が,遂行速度の遅さに2つの原因があることが判明し,これらが相互作用することで,知的障害者の課題遂行が困難になっていることが明らかになった。巧緻性の低さの原因は1)動作対象への注視が動作の開始より遅れること,2)身体関節の多くを稼働させるために動作の安定性が低くなっていることであり,遂行の遅さの原因は3)同工程を反復すること,4)複数の課題要件を同時遂行しないことであった。3はプランニングの問題を示し,4は注意配分・実行機能の問題を示す。これら認知機能の問題が1で示された選択的注意の問題と2の運動機能問題と交互作用することにより,知的障害者の視覚-運動協応機能が低下し,課題遂行が困難になっていると考えられた。
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