2007 Fiscal Year Annual Research Report
不飽和炭化水素間に創られる特異π配位空間におけるパラジウム集積体構造の自在制御
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06J08891
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
辰巳 泰基 Osaka University, 大学院・工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 有機金属化合物 / パラジウム / 精密構造制御 / 金属クラスター / 酸化還元 |
Research Abstract |
複数の金属原子を定まった形状に集積させ、またサイズ選択的に種々つくりわけることは、無機化学・材料科学などの観点から重要な到達目標であるが、これまで達成された例はほとんどない。本研究では従来とは異なる手法として、炭素原子のみで主骨格をつくる不飽和炭化水素を鋳型配位子として用いて、パラジウム集積体の構造や酸化状態を制御することを目指してきた。本年度はパラジウムクラスターとしては珍しい直線型ゼロ価パラジウムクラスターを種々合成し、その構造や反応性についての詳細な知見を得るとともに、量子化学計算により電子構造についての考察を行った。以下に具体的な内容を示す。 ジカチオン性の1次元型パラジウム四核錯体[Pd_4{Ph(CH=CH)_4Ph}_2][BAr_f]_2(BAr_f=B{3,5-(CF_3)_2C_6H_3}_4)の2電子還元反応により、中性のパラジウム四核錯体Pd_4{Ph(CH=CH)_4Ph}_2を合成した。中性錯体を2電子酸化すると、元のジカチオン性錯体を定量的に与えることを確認し、この変換が可逆的に起こることを明らかにした。類似の中性錯体であるPd_4{Ar'(CH=CH)_4Ar'}_2(Ar'=3,5-(C_4H_9)_2C_6H_3)のX線結晶構造解析により、中性錯体においても4つのパラジウム原子が鎖構造を保持していることを明らかにした。これらの中性錯体は塩化アリルやジベンジリデンアセトンなどの親電子試薬と反応して、それぞれ[Pd(allyl)Cl]_2やPd_2(dba)_3(dba=ジベンジリデンアセトン)を与え、ゼロ価パラジウムを放出する性質があることを明らかにした。モデル化合物について量子化学計算(MP2)を行ったところ、中性錯体ではパラジウム四核鎖ユニットが正電荷をもち、それを打ち消すように2つのポリエン配位子が負電荷をもつことが判明した。このことから、ポリエン配位子は逆供与により電子を受け取ることでゼロ価パラジウム鎖を安定化する役割をするという知見を初めて得た。以上本研究では、金属鎖の酸化状態に関して、低原子価/高原子価の2つの異なる状態間を、鎖状構造を保ったまま可逆的に変換する新手法を開拓した。
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Research Products
(1 results)