2006 Fiscal Year Annual Research Report
中途脊髄損傷者の受傷から現在までの自己の再構築過程に果たす運動・スポーツの役割
Project/Area Number |
06J09363
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
洞ノ上 若希 (内田 若希) 九州大学, 大学院芸術工学研究院, 特別研究員(PD)
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Keywords | 中途身体障害者 / 多面的階層モデル / 自己変容過程 / 質的アプローチ |
Research Abstract |
従来の運動・スポーツ科学領域における身体障害者を対象とした研究では,理論モデルの不在と量的アプローチの限界が指摘されてきた.そこで本研究では,中途身体障害者を対象として,自己概念に関する多面的階層モデル(Fox & Colbin,1989)に準拠しながら,受傷から現在までの自己変容過程に及ぼす運動・スポーツの役割を量的・質的アプローチから解明することを目的とした.今年度行った研究の概要と知見を以下にまとめる. 1.欧米を中心に作成された自己概念に関する多面的階層モデルの日本人サンプルへの適用を検討した結果,多面的階層モデルと使用する尺度の信頼性・妥当性が確認され,これに関して論文として公表した. 2.中途身体障害者のみをサンプリングし,先行研究よりも精度の高い尺度を用いて,健常者を対象に作成された多面的階層モデルの中途身体障害者への適用を再検討した.その結果,中途身体障害者への多面的階層モデルの適用は妥当であり,自己変容過程を検討していく上での理論モデルとして有用であることが明らかになった 3.中途脊髄損傷者1事例を対象に,自己概念に関する多面的階層モデルに準拠して,質的アプローチから自己変容過程を検討した.その結果,中途脊髄損傷者は,受傷により身体機能や身体部位の喪失を経験し,それまで存在してきた身体的側面(身体能力,体型,筋力など)に関する知覚が喪失することで,価値あるものの喪失も経験し,自己が揺らいでいた. 一方,運動・スポーツを通して,失われた身体的側面に関する知覚が再定義されることで価値の転換が生じ,受傷による喪失感からの脱却や生きる意味の再定義がもたらされ,自己の可能性へ挑戦する機会が提供されていた.
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Research Products
(2 results)