2007 Fiscal Year Annual Research Report
精神病の日本近代-法の埒外に置かれる病者の概念化・処遇と治病をめぐる歴史的研究-
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06J09902
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
日比野 晶子 (兵頭 晶子) The University of Tokyo, 大学院・人文社会系研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 個人性 / 未然の危険 / 刑法 / 精神病学 / 民俗治療 / 〈繋がり〉 / 監禁 / 架空 |
Research Abstract |
本年度は、まず、精神病者に危険な「個人性」を見出し封じようとする、刑法と精神病学の間で生まれた権力が、私宅監置という日本固有の制度に大きな影響を与えていたことを明らかにした。本来、私宅監置は、病者が地域社会で「危険」だと認められた時に初めて実施される。しかし、家族に監置能力がなく方面委員が関与した場合、病者は「危険ヲ未然二防止スル」ために早々と監置されていた。必ずしも永続的な監禁を意図していない私宅監置が、未然の危険を予防するための永続的な監禁へ変質した瞬間であり、この権力の日本的な現れがうかがえる。 次に、こうした権力に貫かれた処遇が何を失ったのかを、前近代から続く民俗治療との対比から浮き彫りにした。民俗治療では、人間を含めた天地万物との〈繋がり〉を修復することで病気が治ると考える。従って、病者も、そうした〈繋がり〉の中で治病を目指すことが可能だった。しかし、精神病を「個人性」の病と考える精神病学は、病者を一切の〈繋がり〉から断ち、精神病院の中に置いた。徳島県阿波井神社の水行も、水の物理的効果だけが着目され、地域の人々などとの〈繋がり〉は捨象された。その結果、阿波井島保養院は、「嫌がる患者を[水行に]強制的にでも参加させる、それ以外は厳重に監禁した収容所」へと化したのである。鍵をかける看護人と病者の間に、かつての共同性は微塵も残っていなかった。 このように、本研究は、精神病者が法の埒外に置かれ、無期限の監禁を課されてしまう問題性が、精神病という病気観、ひいてはその背景にある近代社会の「個人」概念と深く関わっていることを明らかにしてきた。精神病者に見出される未然の危険が、「個人性」の時間幅から導き出される「架空」でしかないことを、強く主張しておきたい。
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Research Products
(5 results)