2006 Fiscal Year Annual Research Report
哲学的問題としての「翻訳」:ハイデガーの思想とそのフランスにおける受容の研究
Project/Area Number |
06J10060
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
西山 達也 東京大学, 大学院総合文化研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | マルティン・ハイデガー / ジャック・デリタ / フランス現代思想 / ジャン=リュック・ナンシー / 翻訳 / 言語哲学 |
Research Abstract |
本研究の目的は、マルティン・ハイデガー(1889-1976)の思想のフランスにおける受容の諸相を研究するとともに((1))、思想の受容ないし「翻訳」という現象を、ハイデガー自身における翻訳の哲学((2))から捉え返すことにある。 研究初年度である本年度は(1)の作業を重点的に進めた。この作業の中心を占めたのは、「retrait(撤回・撤退・再描)」という概念ないし語の検討である。この概念(語)は、ハイデガーの思考をフランス語へと「翻訳」する際に用いられる独特な語彙のひとつであるが、本年度の研究では、この語の翻訳に注目しながら、ハイデガーの思考全体を「ルトレ」概念へと集約させたジャック・デリダの取り組み(「隠喩のルトレ」、1978)の意義を考察した。この研究の結果、次のことが明らかにされた。1.デリダは「ルトレ」という概念(語)の翻訳を通じて、ハイデガーにおける(ポスト)形而上学的思弁のポテンシャルを増大させ、2.翻訳の実践によってこの思弁に言語論的な裏づけを与え、3.ひるがえって翻訳の実践そのものの思弁的側面を強調した。以上の考察から、ハイデガーとデリダによって急進化された20世紀の思弁的翻訳論のアウトラインを描くことが可能となり、この成果はハイデガー・フォーラム第一回大会(於東京大学)で口頭発表、学会誌『ハイデガー・フォーラム』に掲載した。また上記の作業を補うものとして、デリダと同様に「ルトレ」概念をめぐって独自のハイデガー読解を展開している思想家ジャン=・リュック・ナンシーについての研究も遂行した。ナンシーにおいて、「ルトレ」の思考が形而上学的・神学的言語の一体性にどのような亀裂を刻み込んでいるかを考察することで、言語的共同性の可能性/不可能性の問い、すなわち「翻訳」の問いへと接合を試みた。この成果は「"winke-winke"あるいは一神教の翻訳可能性」として発表した。
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Research Products
(2 results)