2008 Fiscal Year Annual Research Report
哲学的問題としての「翻訳」:ハイデガーの思想とそのフランスにおける受容の研究
Project/Area Number |
06J10060
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
西山 達也 The University of Tokyo, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | ハイデガー / 翻訳論 / アリストテレス / パルメニデス / プラトン / 言語哲学 |
Research Abstract |
1.「ハイデガーとコスモス」(UTCP研究会「歴史哲学の起源」での発表) 本発表では、ハイデガーのアリストテレス翻訳についての検証から出発して、翻訳と世界性および世界史の連関を巡って考察を行った。ハイデガーの思考は最初期から1930年代に到るまで、世界性の概念を中心に据えて構築されたが、とりわけ最初期のアリストテレス講義(2005年刊行、全集62巻)のなかでは、ヘレニズム的コスモロジーを基盤としつつ、周到にヘブライ的終末論が接ぎ木されていた。本発表では、ハイデガーがコスモス概念に加えた操作のうちにヘレニズムとヘブライズムの相互翻訳を透視し、その翻訳思想の形而上学的・神学的位相を明らかにした。 ※発表後、マルクーゼ文庫(フランクフルト・アム・マイン)所蔵のハイデガーの未公刊講義ノート(1932年夏学期)を追加調査し、従来の研究では注目されてこなかったハイデガーとコスモス論の関係を検討することが出来た。この成果は「ハイデガーとコスモス:パルメニデスの歴史哲学」(『歴史哲学のメタモルフォシス』未来社)に発表することが決まっている。 2.「Hormathos:une longue serie de cercles philologiques」(国際コロキウムdeclinationes philologiaeでの発表) 本発表では、ハイデガーの翻訳思想をプラトニズムの思想史的伝統と関連づけるべく、プラトンの対話篇『イオン』の読解を試みた。この対話は、ヘルメネイア(神的言語の翻訳=解釈)の技術をめぐる対話であり、新プラトン主義や解釈学において様々に注釈され、ハイデガーの『言葉についての対話』のなかにも言及がある。本発表は、この対話篇の中心部で重要な役割を果たしているhormathosという語(連鎖・系列を意味する)に着目した。この語は『イオン』においては、翻訳者/解釈者が対象となる作品からインスピレーションを受け取る瞬間の生起を言い表すために用いられており、「翻訳」という実践の最小単位である連接/脱連接の作用を指し示すものである。hormathosという語から出発することで、翻訳と解釈、哲学と文学と文献学の関係についての包括的な問題を示唆することが出来た。
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Research Products
(5 results)