2006 Fiscal Year Annual Research Report
生物群集の再帰的な放散と絶滅における生態的要因の理論解析
Project/Area Number |
06J10112
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
伊藤 洋 東京大学, 大学院総合文化研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 理想自由分布 / 適応放散 / 絶滅 / 食物網 / 進化動態 / 捕食被食相互作用 / 資源競争 / 適応 |
Research Abstract |
研究代表者が構築した食物網モデルでは,1種の生物が進化的分岐を繰り返し,それらが複雑な食物網を形成していく進化動態が生じるが,その生物群集の表現型の頻度分布そのものを1つの生物種として解釈し,動態を解釈し直す事で,全ての動態を「群集表現型」空間における方向進化の過程として扱えることを発見した.このことにより種のレベルでは,方向進化や絶滅,放散が複雑に絡み合った動態として解釈される事柄を,著しく単純に記述することが可能になり,資源利用分布の進化による理想自由分布への接近と,資源分布の進化による理想自由分布からの離脱の過程が,数学的に表現された. その一方で,再帰的な放散と絶滅を生み出す根本的な機構についての数値的・数学的な解析を行い,この現象が,進化の速い形質における頻度依存分断化選択と進化の遅い形質における方向性選択が同時に働いている場合において普遍的に生じるであろうことが示された.生物集団は様々な形質において同時に選択を受けており,それらの形質間で進化速度にばらつきがあることは当然である.さらに,生物間相互作用は本質的に頻度依存であり,資源競争,捕食被食相互作用,共生をはじめとする様々な相互作用によって,頻度依存分断化選択が生じ得る事が,多くの理論的・実証的研究によって示されている.従って,本研究が導いた機構は,再帰的な放散と絶滅の一般的な因果律を示すものと考えられる. この機構によって,食物網モデルで生じる再帰的な放散と絶滅を解釈することにより,放散が起こる場合:(a1)ある系統が全く利用されていない新資源(空きニッチ)を利用し始めた場合や,(a2)ある系統の捕食回避能力が上がり適応度が増すことで資源競争力が上がった場合,及び絶滅が起こる場合:(b1)ある系統が被食者との軍拡競争に敗退した場合,(b2)資源競争に敗退した場合などが,統一的に解釈された.
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