2006 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
06J10158
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
入谷 寛 九州大学, 大学院数理学研究院, 特別研究員(PD)
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Keywords | 量子コホモロジー / 軌道体 / Gromov-Witten理論 / Floerコホモロジー / Frobenius多様体 / 国際情報交換:イギリス:カナダ / クレパント解消 / 量子Lefschetz |
Research Abstract |
本年度はTom Coates氏、Alessio Corti氏、Hsian-Hua Tseng氏と共同でトーリック軌道体の量子コホモロジーを研究した。まず、トーリック軌道体から代数的に定義されるある種のループ空間の幾何を調べ、その半無限次元同変コホモロジー(同変Floerコホモロジー)を構成した。これはトーリックが滑らかである時の報告者の構成を軌道体の場合に拡張したものである。この半無限次元コホモロジーはトーリック軌道体の量子コホモロジーを与えると予想される。半無限次元コホモロジーの局所化写像として自然に定義されるI関数を用いて、我々はトーリック軌道体に対するミラー予想を定式化した。さらに、この結果に基づいてケーラー類の壁越えで互いに移りあうトーリック軌道体の量子コホモロジー同士の関係を調べた。特に、壁越えがクレパント、すなわち壁越えで標準類が保たれる場合には異なる量子コホモロジーはある線型シンプレクティック変換によって移りあうことが示された。ここで現れるシンプレクティック変換はGiventalによる無限次元シンプレクティックベクトル空間Hに作用し、量子コホモロジーはこのH内の錐(cone)として実現される。クレパントな壁越えの一例として、軌道体のクレパント解消がある。この場合にはYongbin Ruanにより軌道体とその解消の量子コホモロジーがある解析接続で移りあうことが予想されていた(クレパント解消予想)。さらに、Bryan-Graberによりこの予想はFrobenius多様体の同型として定式化されていた。我々の結果からBryan-Graberによる定式化は実は強すぎ、環の変形族としての同型はいえても、Frobenius多様体の同型まではいえないことが示唆された。さらに、Frobenius多様体の同型がいえるための十分条件として、軌道体がHard Lefschetz条件をみたす、という条件を新たに提案した。引き続いて、我々はHsian-Hua Tseng氏による軌道体Gromov-Witten理論に対する量子Lefschetz定理を大幅に改良し、より広いクラスの直線束によるねじり(twist)に関する量子Lefschetz定理を証明した。これを用いて、A_n型の曲面特異点に対して軌道体量子コホモロジーを計算し、この場合のクレパント解消予想を証明した。 一方、上の壁越えの研究と平行して、報告者は単独に(軌道体)量子コホモロジーに潜んでいる実数および整数上の構造を研究した。これはミラーにおいて明らかに存在している実数、整数上の構造が量子コホモロジー側でどのように見えるかを調べる研究である。報告者は、ある条件の下で軌道体量子コホモロジーの実数上の構造がある種の「横断性」を満たすことを示した。これは量子コホモロジーにおけるtt*幾何学(実数上の幾何学)の存在を示唆している。また、トーリックの場合にミラーの振動積分とI関数との関係(微分方程式の接続問題)を解き、ミラーから来る整数上の構造をトーリックの量子コホモロジーの言葉で部分的に記述した。
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