2007 Fiscal Year Annual Research Report
レフ・トルストイの作品における意識的境界状態の心理的描写
Project/Area Number |
06J10639
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
覚張 シルビア The University of Tokyo, 大学院・人文社会系研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | ロシア文学 / レフ・トルストイ |
Research Abstract |
「意識の境界状態」というテーマのもとに、レフ・トルストイの作品で描かれる、精神世界における生から死、または、死から生へと移行するプロセスの分析を引き続き行ってきた。 始めに、18年度にまとめた論文「L.トルストイの『戦争と平和』における共鳴システム」に、ピエールの見た「水滴に覆われた地球儀の夢」、アンドレイ公爵の幻覚に現われる「空気でできた建物」、ナターシャの祈りの場面が、3人のうちに内的調和を生み出すことで共鳴し合いながらも、彼らの人間関係にも調和をもたらし、さらには、小説全体を一つの調和した終結に導くシステムとして作用するという視点を加え、これを完成させた。『アンナ・カレーニナ』の第7篇においては、主人公の意識が混乱し、必然的に死へと向かう有名な場面があるが、ここで生じる意識の混乱を周囲の時間からの逸脱という観点から分析した。また文明による時間の加速が、かえって精神的不安を増大するプロセスについても言及した。このテーマでは、ロシア文学会で発表を行った。ドストエフスキーの『主婦』においては、意識の境界状態が、現実世界に次元の異なる空間が現れることによって生じている。トルストイとの比較という視点から、『主婦』についても分析をまとめた。トルストイの様々な作品で描かれる意識の境界状態の関係を全体的に捉えるため、この状態を自然状態と社会状態の葛藤の場とする統合的視点を提示した。 また、ロシアで最新のトルストイ文献目録等を入手し、トルストイ博物館附属図書館で、最終的な資料の補完を行った。
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Research Products
(3 results)