2006 Fiscal Year Annual Research Report
印欧語比較言語学及び中央アジアに於ける言語接触の観点からのトカラ語の研究
Project/Area Number |
06J10647
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
荻原 裕敏 東京大学, 大学院人文社会系研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | トカラ語 / 印欧語比較言語学 / 関係詞構文 / 中央アジア / サンスクリット / シルクロード |
Research Abstract |
ヨーロッパを中心とする中央アジア探検隊が、新彊ウイグル自治区トルファン〜トゥムシュクにかけての西域北道より将来したトカラ語文書の言語学的・文献学的研究の方法論の習得、並びにフランス所蔵トカラ語文書の調査・記述を行うために、研究指導の委託により、2006年4月1日〜2008年3月31日の期間、フランス国立高等学術研究院(EPHE)・Georges・Jean PINAULT教授の指導の下、フランスにて、研究を行う。 トカラ語は、サンスクリット経由で、仏教を受容しただけではなく、シルクロード地域の様々な言語とも接触したために、トカラ語文書の研究には、シルクロードの様々な文献言語、及び印欧語比較言語学の知識が不可欠であり、それらの習得にも努める。 また、フランス国立高等学術研究院(EPHE)に提出した2004〜2005年度・DEA申請論文で扱ったトカラ語の関係詞構文の記述の完成を目指す。 一年目は、フランス所蔵トカラ語文書の調査・記述を行うために、大部分が既に公刊されているドイツ所蔵トカラ語文書の索引の作成を行った。この作業は、次年度に完成する予定であり、完成後、フランス所蔵文書の調査・記述を開始する。 一方、現在、準備中の論文執筆のため、トカラ語とサンスクリット原文を対照させた結果、以下の事実を明らかにし得た。 即ち、PINAULT(1997)・<<Sur l'assemblage des phrases(<<Satzgefuge>>)en tokharien>>に拠れば、トカラ語の関係詞構文に於いては、関係節のhead nounは、関係節だけでなく、主節にも現れる事ができ、サンスクリットからは、この現象を説明できない(pp,472-473)という事を指摘しているが、この度、このトカラ語の部分に対応するサンスクリット原文を比定する事に成功し、この部分が、サンスクリット原文の忠実な訳文であるという事実を発見した。これまでに収集し得たコーパスからは、このような構文は、ここで提示された箇所だけであるため、トカラ語本来の構文であると断定できないと、PINAULT(1997)の記述を訂正するとともに、今後、この方面の調査を継続する必要性と、トカラ語に於けるサンスクリットの影響の大きさを、改めて指摘した。
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