2006 Fiscal Year Annual Research Report
近代日本の病理学的心理学言説における精神観と社会観
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06J10660
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
佐藤 雅浩 東京大学, 大学院人文社会系研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 精神医学史 / 心理学史 / 歴史社会学 / 文化社会学 / 生態的ニッチ / メンタルヘルス / マスメディア / 逸脱 |
Research Abstract |
本年度は、資料収集と理論研究、方法論の探索を中心に研究を実施した。その結果、以下のような知見が得られた。 1.明治〜大正期の精神医学、心理学関連の書籍・雑誌・新聞資料を閲覧収集し、逐次データベース化と内容分析を行った。その結果、明治末期から大正期にかけて「神経」に関する病理学的心理学言説(神経病、神経衰弱)が学界やマスメディア領域において構成され、広範な関心を集めていたことがわかった。また同時期には、「精神病」を犯罪との関連から研究する書籍・新聞記事などが量産されており、19世紀末以降の変質論や進化論等の影響を受けた犯罪精神医学的言説が専門家/非専門家の間で受容されていたことが確認された。 2.理論研究・方法論の探索のため諸外国の類似研究を収集・検討したところ、I. Hackingによる一連の研究が本研究にとって有益な研究視角を提供していることがわかった。とくにMad Travelers(1998)におけるecological niche(生態的ニッチ)という概念は、病理学的心理学言説の歴史分析や比較地域研究を行う際に、有効な分析軸となる可能性が示唆された。来年度はこの概念を批判的に継承することで、近代日本における病理学的心理学言説の構成と変容過程を通史的に解明する予定である。 3.戦後日本の精神医療体制やマスメディアにおける病理学的心理学言説の変容過程を調査・分析した結果、戦後1960年代までは精神病などの病を収容治療によって社会から隔離する制度・実践が貫徹されており、マスメディア報道もこうした体制を支持する言説を生産していたことを確認した。しかし1970年代以降は、反精神医学運動、地域精神医療の進展、心身相関概念の導入、診断名の精緻化、向精神薬の導入などによって、精神疾患が日常的な健康問題(メンタルヘルス問題)として再定義され、精神疾患の逸脱論的解釈は後退していることが示された。
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Research Products
(2 results)