2006 Fiscal Year Annual Research Report
モンスーンアジア稲作地帯における水利組織の持続性に関する研究
Project/Area Number |
06J10927
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
田中 幸夫 東京大学, 大学院農学生命科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 水利組織 / 公正さ / 農業 / 国際河川 / イラク / RS / GIS |
Research Abstract |
はじめに、アジア稲作地帯の灌漑水利組織の対象事例としてタイ国サラブリ県ケンコイバンモ地区を選定した。この地域は援助事業により灌漑インフラの整備を行ったがそれを維持管理する組織が未発達である。現在は援助機関が当該地に水利組織を定着させようとモデル事業を実施している。私は研究者という第三者的立場で当該地の現況及び組織形成過程を調査した。その結果、i)従来の田越し灌漑から土水路に変わるという"ハードの変化"が水を巡る紛争の発生率を相対的に抑制していること、ii)従来のインフォーマルな慣習に基づいた水管理からフォーマルな組織に変わるという"ソフトの変化"もルールへの権威付与につながり、ルール遵守の確率を高めていること、iii)しかし同時に組織が複雑化することにより組織内トラブル(汚職等)が発生するリスクも高まっていること、などが明らかになった。 また、水資源配分メカニズム解明の対象規模を拡張し、国際河川における協調的水資源利用達成のために必要な条件に関する検討を行った。具体的には中東のティグリス・ユーフラテス川流域を対象にし、文献調査および関係者への聞き取りを行った。その結果、水資源を巡る国家間交渉における恣意的でないデータの欠乏が交渉決裂の大きな要因になっていることがわかり、特にデータの欠乏が著しいイラクに関して国家規模の農業水需要モデルの構築を試みた。当該地のデータは慢性的に不足しているため、リモートセンシングによる土地利用ならびに気象データを用い、地理情報システム(GIS)による解析を行い、情報を補った。これにより、上流国(トルコ・シリア)からイラクへの流入量の変化によってイラク国内の耕作実施ならびに塩類集積の程度を予測することが可能となった。今後はこのモデルが実際にティグリス・ユーフラテス川の水利用を巡る国家間交渉においてどのような影響を持ちうるかを評価していく予定である。
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