2006 Fiscal Year Annual Research Report
スターリン期ソヴィエト連邦における物理学の制度史的・思想史的解明
Project/Area Number |
06J10972
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
金山 浩司 東京大学, 大学院総合文化研究科, 特別研究員(DC2)
|
Keywords | セルゲイ・ヴァヴィーロフ / 弁証法的唯物論 / イデオロギーと科学 / エネルギー保存則 / ソ連における科学 / ヨッフェ |
Research Abstract |
ソ連邦における科学(とりわけ物理学)と国家制度・イデオロギーとの相関関係を歴史的に検証するため、1930年代におけるいくつかの科学哲学上の論争一指導的物理学者・旧世代の物理学者・共産党員である科学哲学者の三者の問でたたかわされた一を選出し、その政治的文脈のみならず哲学上の内容にも踏み込んで、史料解釈を行った。これまで時系列に沿った綿密な史料検証ができていなかった時期・テーマに対し、歴史的理解を精緻化することができた。 すなわち、ソ連の物理学に関して従来は、その制度的・社会的の強さに裏付けられた物理学者集団が、現代物理学の実践的成果等を無理解な哲学者や旧世代の物理学者たちに示したがゆえに「イデオロギーによる害悪」を比較的こうむらなかったという解釈が主流であったが、これが十分な史料読解の裏づけを欠いた説得力の不足したものであることを示した。1930年代の哲学論争はいったん険悪化したあと沈静化するが、これは物理学者の哲学者に対する単純な勝利といったものではなく、物理学者集団内の対立が「イデオロギー的正当性」を求める戦いに転じたという性格を有していたこと、指導的物理学者はかなり後になるまで自らの立場の擁護に成功していなかったこと、哲学者たちの論難はその科学上・哲学上の内容を検討してみた場合まったくの不当な、非科学的なものとは言いがたいこと、指導的物理学者がかなりの譲歩を含む巧妙な政治的振る舞いを取ることでようやく論争が沈静化したこと、等に着目しなければならない。また、付随的な研究成果として、イデオロギー的な「抑圧」といわれがちな思想の方向づけが、きわめて「民主的」な外観によって行われていたことも明らかにできた。
|