2006 Fiscal Year Annual Research Report
19世紀華南における社会変動と基督教、後期太平天国における洪仁カンの活動を中心に
Project/Area Number |
06J10980
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
倉田 明子 東京大学, 大学院総合文化研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 太平天国 / 洪仁〓 / 資政新篇 / キリスト教 / 墨海書館 / 近代化 / 王韜 / 容〓 |
Research Abstract |
今年度は、(1)洪仁かんとほぼ同時期に上海で西洋の新知識を身につけた中国人知識人について、(2)著書『資政新篇』に見る洪仁かんのキリスト教信仰と西洋認識について、(3)洪仁かんに関するバーゼル伝道会史料の読解の諸課題について研究を行った。 (1)では、上海の墨海書館で1850年代に西洋の新しい知識に触れた経験を持つ徐寿や華衡芳、李善蘭、容閑などを取り上げ、その経歴を明らかにするとともに、王韜や管嗣復など李善蘭らと共に墨海書館で翻訳助手として活躍した知識人にも注目した。彼らの中からは少なからず曽国藩など当時の清朝の官僚の幕僚となる者もおり、墨海書館が彼らのような新しい知識を求める知識人の交流の場として機能していたことが指摘できる。 (2)は、洪仁かんの『資政新篇』を題材に、そこに現されるキリスト教的要素と西洋認識について検討した。また、宣教師による西洋の制度や地理、科学知識などに関する書物・新聞、また洪仁かんが数年間に渡って生活した香港の状況などをもとに『資政新篇』に書かれている内容との比較を行い、洪仁かんの知識の裏付けを試みた。 洪仁かんの西洋認識は当時の彼のキリスト教信仰と不可分のものであり、宣教師が様々な形で主張していた世界観、文明観と非常に似通っていた、と言える。1860年代初頭という初期の段階での「西洋」認識の一つとして、中国の近代化の流れの中に『資政新篇』を位置づけるという新しい観点を提示した。 (3)は、洪仁かんに直接言及している数少ない一次史料の一つであるバーゼル伝道会史料の読解を進めるものである。ドイツ語による手書きの報告書のため、これまでほとんど用いられてこなかったが、ロンドン伝道会の宣教師の観点とは異なる洪仁かん像を描くことが可能になると思われる。
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