2007 Fiscal Year Annual Research Report
指紋を中心とする身元確認技術の歴史の総合的研究-「登録される身体」の誕生
Project/Area Number |
06J10989
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
橋本 一径 The University of Tokyo, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 身体論 / 表象文化論 / アイデンティティ / 19世紀フランス / 医学史 / 写真 / 犯罪学 / 指紋 |
Research Abstract |
指紋を用いた身元確認システムの成立を、身体と同一性の関係の変容として思想史的に捉えなおす本研究は、主として以下の3点をめぐり展開される。(1)19世紀フランスにおける出生証明の医学化。(2)19世紀末における科学的な身元確認技術の成立。(3)身体的同一性の現代的な展開。 上記(1)〜(3)それぞれについての本年度の研究状況は以下のとおりである。 (1)フランスにおける戸籍の成立と、そこでの医学の役割についで考察した。フランス革命中に整えられた戸籍制度は、当初の規定によれば出生証明の提出時に新生児を役場まで運んで「お披露目」することになっていた。本研究は、医師たちの主張により19世紀半ばに廃止されるこの「お披露目」という儀礼に着目し、制度的なものとしての人間の誕生が、医学の領域に取り込まれる過程を描き出した。 (2)前年度に引き続き、人間の同一性が、指紋のような客観的な指標によって確認されるようになる過程を考察した。この過程を19世紀の科学全般における客観化の流れのなかに位置づけなおすことを試みたのが<学会発表1>である。またそこでの写真メディアの役割をめぐり、<論文1>では医学における写真について、また<論文2>では身元写真の歴史的意義について考察した。 (3)上記の二点から明らかになるのは、「お披露目」の廃止によって制度的な場面から撤退した身体が、警察により同一性の指標として再発見されるという過程である。しかし自分の指紋を見分けることが困難であることが端的に示すように、この新たなに発見された身体には、主観性の次元が不在である。本研究は、制度的な場面において居場所を失ったかに見える主観的な身体の、近代的な表象をとらえなおすことを目指した。また本研究は、19世紀の法学における身体のステータスの変容をめぐる検討をあわせて、より広範な身体論へと引き継がれる予定のものであり、本年度はそのための準備となる資料収集や調査を行った。
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Research Products
(3 results)