2006 Fiscal Year Annual Research Report
サミュエル・ベケットにおける「翻訳行為」-バイリンガリズムとジャンル横断の帰趨
Project/Area Number |
06J11001
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
木内 久美子 東京大学, 大学院総合文化研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | サミュエル・ベケット / 翻訳 / ジャンル / 言語 / 撞着語法 / メディア / アイルランド文学 / フランス文学 |
Research Abstract |
本年度はサミュエル・ベケット作品における「翻訳行為」の概念の抽出に取り組んだ。まずベケットの批評作品やインタヴューの踏査を通して、ベケット作品における「言語への問い」を「思考によって使用される道具としての言語」(1940年代)から、「思考を事後的に構造化する言語使用」(1950年代)を経て、「言語使用それ自体の根拠自体を問うこと」(1960年代)に至る過程として解明した。さらにこの前提を念頭におき、ベケットの初期の小説三部作の英・仏語版の徹底的な比較研究を行った。そのその結果、ベケット作品における「翻訳行為」が文法レベル、意味レベル、形象レベルの関連のうちに構造的に問題化されていることを明らかにした。シンポジウムOrder and Disorderでの口頭発表"Dis-ordering the Order in Translation : Reading Samuel Beckett's Molloy"では文法と意味レベルの関係に注目し、言語使用における意味伝達の曖昧さが「道具としての言語」を解体する過程を分析した。国際学会Borderless Beckettでの口頭発表""Marker of Borders and Give of Language : A Study of the Figure fBirds"はベケット作品における二言語間の翻訳の不可能性が、「オウム」によって媒介されていることを論じ、もって「翻訳行為」の地平が単に意味の伝達を目的とするだけでなく、そのような意味生成を条件づける意味生成以前の場をも含むことを明らかにし、「言語使用それ自体の根拠を問う」引き金になっていることを示した。2006年6月にはサミュエル・ベケット・アーカイヴ(英国・レディング大学)に赴き、1950年・60年代に書かれた演劇作品、散文作品の草稿を踏査・収集した。その結果、ベケット作品における「翻訳行為」の解明が次年度の研究課題である「ジャンル」問題と切り離しがたいことが確認された。その洞察の一部は、早稲田大学演劇センター紀要に寄稿された投稿論文"The Idea of "Game"and "Play" in Samuel Beckett's Theatre: From Waiting for Godot to Play"にまとめられた。
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Research Products
(1 results)