2007 Fiscal Year Annual Research Report
サミュエル・ベケットにおける「翻訳行為」-バイリンガリズムとジャンル横断の帰趨
Project/Area Number |
06J11001
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
木内 久美子 The University of Tokyo, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | サミュエル・ベケット / 翻訳 / ジャンル / 言語 / 撞着語法 / メディア / アイルランド文学 / フランス文学 |
Research Abstract |
本年度は初年度の成果を引き継ぎサミュエル・ベケットの作品における「翻訳行為」の解明に取り組んだ。その結果、ベケット作品では英・仏語間の「翻訳行為」が小説・ラジオ・テレビといったジャンル間の横断へと展開され、それが特に後期ベケット作品におけるテキスト生成の原動力となっていることを解明した。年度の前半には1960年代に書かれた散文作品(『事の次第』と『死んだ頭』など)と1950年代以降に執筆・制作されたラジオ・テレビ作品における感覚の表現を比較分析し、表象不可能性を表現する「撞着語法」の使用が、散文作品とメディア作品、あるいは言語と表象との境界として、両者間の翻訳を構造化していることを論証した。その成果は学術論文'Oxymoronic Perception and the Experience of Genre:Samuel Beckett's Ghost Trio,.but the clouds.and Beyond'としてまとめられた。本論はJournal of Beckett Studiesに掲載されることとなった。また、本年度7月には初年度の成果を世に問うため、二つの国際学会でベケットの初期小説についての発表をおこなった、イギリス比較文学会主催の国際学会では、「フォリー」という言葉の使用に、また国際アイルランド学会では「書く行為」のトポスとしてのノートブックの表象に注目し、ベケット作品を英仏語で比較分析した。その結果「翻訳行為」と「書く行為」との連関性を論証し、これらの行為の自己生成性の内実と構造を解明した。年度の後半は、これらの成果を踏まえて、1980年代以降に書かれた散文と演劇作品を分析し、この時代の作品が「バイリンガリズム」と「ジャンル横断性」とが結晶する地点を示していること、さらにこの地点は既成の文学ジャンルの境界を超えるような、いわば散文でも演劇でもない「書くこと」の自己生成(generis)性を表象するような新たな文学ジャンルを提示していることを論証した。以上の研究成果は一つの論考にまとめられた。
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Research Products
(3 results)