2006 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
06J11015
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
坂本 尚繁 東京大学, 大学院総合文化研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 国際環境法 / 国家責任 / 京都議定書 / ストックホルム宣言 |
Research Abstract |
本年度は京都議定書の遵守手続などの手続の資料収集に加え、本研究の視座である国家責任論に関する理論的な検討を行った。国家責任条文草案において違法概念が国家の事実行為と国際法の義務との間の客観的な「ずれ」とされ、伝統的な過失の要素が除外されるのは、草案の国家責任法体系が伝統的な国家責任法とは異なり、あらゆる違法行為についての一般国際法として意図的に再構築されているからである。草案42条により、理論的に環境義務も草案が構築した国家責任の枠組に入りうる。さらに草案は、対抗措置の制度により義務の履行の促進を定めており、事後救済に限定されない。 加えて条約手続の分析・評価を進める前提的課題として、国家責任法との関係に留意しつつ、国際環境法の概念の形成について歴史的に検討した。現在の学説は、国際環境法を環境問題に関する国際法の集積として捉える立場と、環境に由来する固有の原則・方法で形成される法体系として捉える立場に分かれるが、前者では国際環境法としての体系性が存在しないことになる。ここで、はじめ責任・賠償に関する特殊な問題としてそれぞれ別個に研究が進んだ河川や海の汚染問題は、ストックホルム宣言を契機として国際環境法として集積され、環境の不可逆性などから事後救済・国家責任法になじまないとして、固有の法分野として主張されるに至った。しかしこの国際環境法は、公海自由や衡平利用などそれぞれ別個の原理・原則に基礎付けられた国際法の束であるにもかかわらず、固有の原理や方法論について理論的な精緻化が十分に行われないまま、量的な拡大を続けて現在に至っている。それゆえ環境条約の手続に特殊性を認めるとしても、国際環境法であることからただちにそのことを基礎付けることは出来ず、個々の制度ごとの評価が必要となる。同時に、国家責任法などの一般国際法による規律の範囲を具体的に分析する必要性が示された。
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