Research Abstract |
本年度はまず,オーストラリアと日本の比較文化研究で,社会的文脈(個人文脈と関係文脈)と存在論的恐怖の顕現化の操作(MS操作),および顕在的自尊心が,潜在的自尊心(誕生日効果得点)に及ぼす影響について検討した。オーストラリアでは文脈,顕在的自尊心によらず,MS操作が潜在的自尊心を高めるという結果が得られた。一方,日本においては,MS操作が潜在的自尊心を高める効果を持ったのは,顕在的自尊心が高い者が,関係文脈の下で回答を行った場合のみであった。対照的に,顕在的自尊心が高い者が個人文脈で回答する場合,MS操作は潜在的自尊心を低める効果を持っていた。存在論的脅威の潜在的自尊心に対する影響が社会的文脈に調節されるという結果は,文化差に関する理解を進展させるものである。 次に,他者を媒介とした防衛反応について,日本での検討を行った。過去の成功・失敗についての自己の帰属と,親友からの支援的帰属の期待を取り上げた実験では,一定の条件(失敗を成功より先に考える,もしくは親友の帰属を自己の帰属よりも先に回答する)の下で,愛着不安が高い者と愛着回避が低い者は,MS操作によって自己卑下的な帰属,親友からの支援的帰属の期待双方を強めることが示された。一方,愛着不安が低い者は,失敗を先に思い出す場合に,MS操作条件で自己卑下的帰属を弱めていた。さらに,親しい友人に対して行った過去の肯定的行為・否定的行為の主観的時間的距離に対するMS操作の影響を検討した実験を行った。その結果,MS操作を受ける条件では,親友に対する過去の肯定的行為が統制条件よりも近くに感じられていた。一方,安定型愛着の者では,MS操作は罪悪感を感じた経験を近く感じさせる効果を持っていた。これらの研究は,他者との関係を通じた防衛の様態について知見を蓄積し,防衛反応の多様性を検討する下地を提供する意味がある。
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