2006 Fiscal Year Annual Research Report
「人と自然のかかわり」をめぐる規範性の研究-自然再生事業を例に-
Project/Area Number |
06J11132
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
富田 涼都 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 自然再生 / 霞ヶ浦 / 環境倫理 / 順応的管理 / 合意形成 / 市民参加 / 日常の世界 |
Research Abstract |
本研究では、文献調査や茨城県霞ヶ浦の自然再生事業の事例などの調査を行った結果、自然再生は、生態系のダイナミズムだけを対象としたのでは目的が達成されず、人と自然のかかわりの再生が必要であることをモデルを示して明らかにした。そのことによって、自然再生事業は「日常の世界」という観点から、社会や「思い」という点からも位置づけられるべきという規範的な方向性を見出し、今後「日常の世界」とその時間的な変容に注目する必要があることを示した。また、そうした社会や「思い」といった観点からの事業の検証(社会的な順応的管理)は、自然再生事業における順応的管理において適切な合意形成と結果的に生態系に対する適切な対処をもたらすことを明らかにし、社会的関係の設計によって環境的な持続性や社会的公正を達成していく可能性を示唆した。 一方、かかわりの再生の実現に際しては、協議会のような合意形成の場におけるプロセス(「学びの過程」)自体が社会的関係、信頼関係をつくっていくうえで重要であることを分析し、そこに市民参加の意義があることを考察。合意形成の場で社会的公正や存在の豊かさを達成していく上ではそのプロセスに注目する必要を明らかにした。また、「生物多様性」という概念と現場での利用のされかたを検討することで、科学知による「生物多様性の保全」と知識の啓蒙という単線的なモデルが現実にはありえないことを示し、合意形成においては生態系だけではなく、精神的な思いや、社会的な関係を基盤とした上での「生物多様性の保全」概念の構築が必要であることを明らかにした。 以上のような結果から、今後は佐賀県アザメの瀬の調査も踏まえ社会的関係や精神的な思いの変化と生態系のダイナミズムを、空間・時間をより明確にして分析していくことで、人と自然のかかわりにおける規範的な枠組み、環境倫理の枠組みを理論的に示していくことを計画している。
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Research Products
(5 results)