Research Abstract |
今年度は昨年提出した修士論文につき,フランスの社会学者デュルケムについて論じた部分の理論的含意を抽出する作業にまずは従事した.De la division du travail sociale, Lecon de sociologieにおけるデュルケムの私法に対する見方,及びに彼の社会学における法の位置づけの検討を媒介とし,社会を構成する要素としての法,かつその社会における人と人との関係の不均衡を是正する装置としての私法,という理論的な観点を析出するに至った.この成果を,「デュルケムの社会認識における私法秩序の規範的位相」と題して,日本社会学会にて報告を行った. ついで,社会認識の方法論につき,東京大学社会学研究室へ提出された博士論文たる,宮本直美『教養の歴史社会学:ドイツ市民社会と音楽』を具体的な素材として,近年,具体的な研究,及びに方法論的な検討が盛んに行われている歴史社会学に対して,社会を構成し,また社会の認識を可能にする理念の役割に着目する方法論的な問題提起をなした.その成果は,「理念と社会:歴史社会学の一つの方法論として」論文に結実することとなった.また,当該論文を執筆するにあたり,ドイツにおける市民社会の概念の再検討を行い,本課題の下で研究を行っている19世紀フランスの市民社会・すなわち私法秩序の構成領域を比較史的に考察する視座を得た. さらに,19世紀末から20世紀初頭に位置する社会学であるデュルケムのそれをフランスの知的文脈にて検討を加える前提的作業として,近年フランスにて精力的に論考を重ねているPierre Rosanvallon氏の19世紀研究の吟味に着手し始めたところである.この作業を通じて,19世紀のフランス社会学史,及びにフランス思想史に一定の見通しを得るに至った. 最後に法学の研究を,ゼミナール,研究会への出席を重ね,進めている.その途上で,フランスの19世紀をそれ以前と区別する要素として,行政国家の展開に着目すべきことが明らかになった.私法そのものはフランス古法時代から存在するが,国家の公法的把握により,19世紀において私法秩序がいかなる変容を遂げたのか,それが問題であるということに行き当たった.今後は公法との関係も視野に入れつつ,19世紀に着目すべき理論的領域として浮上した社会という概念の検討を行う予定である.
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