Research Abstract |
今年度は,研究題目にも掲げている,私法秩序との理論枠組みのフランスにおける淵源である,ナポレオン法典に関する研究に取り掛かった.奇しくも2004年にフランス民法典は編纂200周年を迎え,フランス,日本において,最新の法史学,法制史の知見に基づき,その再解釈を試みる論文集がいくつか刊行された.それらの書籍を渉猟するなかで,フランス民事法の水準においては,大革命における断絶はさほど大きなものではなく,逆にアンシアン・レジームからの連続性の観点から19世紀以降の歴史を捕らえたほうが,市民社会を端的に経済社会と等値させるドイツにおけるサヴィニーの試み,つまり19世紀ドイツの偏りから自由に,フランス市民社会の様相を捕らえ得る,という方向性に至った。 上記に述べた視角を具体的に19世紀から18世紀に延ばすテクストとして,Tocqueville,Ancian Regime et Ia Revolutionを選択し,少人数で集中的な講読を開始した.また,民法典の起草者,及びにトクヴィルに影響を与えたテクストとして,その背後にモンテスキューの存在を感知するに至った.現在,ヨーロッパでなされている18世紀研究の水準を踏まえ,かつその世紀に社会学的思考の萌芽とそれに支えられた学問の再構成を見出そうとするならば,たとえばカッシーラに見られるような啓蒙像で18世紀を理解するわけにはいかない.例えば,Arnaldo Momigliano,1990,The Classical Foundations of Modern Historiography,が指摘するように,この研究が注目するのは,啓蒙の無歴史的な抽象論が組み立てる体系なのではなく,歴史記述における史料批判,史料操作における思考法の転換なのである.この1年弱は,仏英独,そして伊の基本文献を収集し,まずはそれらの読解と議論の動向を摂取することに終始した.
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