Research Abstract |
2008年度は主として集団遺伝学的側面からの研究を行った.2001年,2005年にサンプリングした個体を,核・ミトコンドリアの遺伝マーカー4個を用いて解析し,cheater(利己的社会寄生系統)の存在を証明した.この論文は,Nature誌のResearch highlightsにて紹介された. また,2007年〜2008年に三重県の調査集団,および全国各地でアミメアリ個体を追加サンプリングし,マグネティックビーズ法を用いた単離によってあらたに得た11個の核マイクロサテライトマーカーを既存の遺伝マーカーと組み合わせることで,より詳細な集団遺伝構造の把握が可能になった.具体的な成果としては,(1)cheaterの調査集団内での存続年数の推定(約30〜180年)や,(2)地理的距離に応じたコロニー間の遺伝的分化(isolation by distance;個体の移動制約を意味する)の検出,さらに(3)調査集団以外にも複数の独立したcheater系統が存在することの確認,などである.計15個の遺伝マーカーを用いた研究は,アリ研究においても非常に稀有であり,本研究で得られた高精度の遺伝構造データの解析によって,今後も多くの興味深い知見が得られるであろう. 遺伝子解析に供した個体は,同時に体サイズ(頭幅)の測定も行った.Cheaterの体サイズの分布パターン,同属他種の女王・ワーカーのサイズ比,さらに,cheaterの持つ微細外部形態の検討により,cheaterの進化的起源は祖先の持っていた女王形質であるという仮説を提唱した. 近年,アリ社会の遺伝構造の研究が進むにつれ,従来知られていなかったタイプの特異な遺伝構造・遺伝的カースト決定システムを持つアリがいくつか知られるようになってきた.アミメアリもそのひとつである.過去10年間に蓄積されたそれらの知見を日本語総説としてまとめた.また,遺伝的カースト決定システムのひとつであるSocial hybridogenesis(同系交配の娘が新女王に,異系交配の娘がワーカーになる現象)に,利己的遺伝子戦略のひとつであるゲノムインプリンティング(遺伝子刷り込み)が関与している可能性を考え,数理モデルによる検討を行った.
|