2006 Fiscal Year Annual Research Report
葉緑体ATP合成酵素εサブユニットの環境応答とその生理的役割
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06J50712
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Research Institution | Nara Institute of Science and Technology |
Principal Investigator |
上妻 馨梨 奈良先端科学技術大学院大学, バイオサイエンス研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | ATP合成酵素 / 乾燥耐性 / 光合成 / チラコイド膜 / 強光 / プロトン勾配 |
Research Abstract |
植物は多くの外的環境下において必要以上の光エネルギーを受け取るため、チラコイド膜の光化学系と、その電子伝達によりチラコイド膜に形成される電気化学的ポテンシャルの制御は非常に重要である。特に、強光乾燥ストレス下の植物葉では気孔閉鎖に伴いCO_2固定反応が停止するが、このときチラコイド膜のエネルギーレベルがどのように制御されているのかについては知見が少ない。我々は、乾燥強光ストレス下の野生スイカにおいて、葉緑体ATP合成酵素εサブユニット蓄積量が選択的に減少することを見出した。εサブユニットはチラコイド膜からのプロトン流出とATP合成を共役させる重要因子であり、その減少はチラコイド膜からのプロトン漏出を促進させると予想された。実際、クロロフィル蛍光解析においてストレスを与えた葉におけるアクチニックライト消去後のNPQの解消速度は非ストレス葉と比較して2倍に増加した。次に光照射下の単離チラコイド膜におけるΔpH形成能をアミノアクリジンによって測定した。その結果、ストレス条件下のチラコイド膜のΔpHはストレス前と比較して低下した。更に、ストレス葉から調整した単離チラコイド膜にεタンパク質を添加したところ、ΔpH形成能の顕著な回復が見られた。これらの結果は、チラコイド膜ルーメンからストロマヘのプロトン流出促進に、εサブユニットの選択的分解が直接的に関与していることを示す。強光乾燥下では光化学系Iの循環的電子伝達経路の促進によりルーメン内へのプロトン流入が活性化するが、εサブユニットの選択的分解による脱共役は、ルーメンの過度な酸性化の回避と、光化学系Iにおける余剰励起エネルギーの散逸に機能すると考えられる。
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