1995 Fiscal Year Annual Research Report
奈良・平安期武士の軍事史的研究-比較史的手法と遺物に即して
Project/Area Number |
07610330
|
Research Category |
Grant-in-Aid for General Scientific Research (C)
|
Research Institution | Shiga University |
Principal Investigator |
高橋 昌明 滋賀大学, 教育学部, 教授 (30106760)
|
Keywords | 武士 / 武芸 / 騎射 / 組打ち / 打物戦 |
Research Abstract |
平安末期・鎌倉期の武士の本場は東国である、という理解は常識化している。そして当時の武士の表芸が騎射、すまわち馬上の射芸であるということも、近年の研究(筆者のそれを含む)で明らかになっている。この二つが結びつくと、東国武士は西国や平家の武士に比べ、騎射に秀でていたという理解が成立し、事実これまでそのように信じられてきた。しかし、本科研費による研究で軍記物などを子細に検討し、騎射の一騎討ちによって勝敗が決する場面は、具体的にはほとんど見られないことを確認した。むしろ、東国武士は馬上での組みうち、もしくは組んで馬から落ちくんずほずれずの格闘の末、相手の首をあげるという戦法にすぐれていた。軍記物での戦闘で、ごくありふれた場面であるゆえんである。そしてそれ以外の遠矢や打物戦(太刀や長刀による戦い)は、鎮西武士の得意技であったらしいことを明らかにできた。これらから騎射は広く行われた実戦の武芸というより、一部の都のエリート武士の模範戦技であり、流鏑馬や五月会の競技の栄を競うものであったと考えるべきだという考えが導き出される。なお打物戦では、豪剣で相手の兜の鉢を強く打ち、脳震盪を起こさせるか、兜を吹き飛ばして、露出した相手の首を斬るのが、中心であったようである。さらに注意深く検討してゆくと、軍記物では、熊手・薙鎌・手鉾などを使った戦闘場面も見られ、常套的な理解とは違ったさまざまな戦闘のやりかたがあったことがわかってきた。
|