1996 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
07610394
|
Research Institution | Kobe Jogakuin College |
Principal Investigator |
清水 忠重 神戸女学院大学, 文学部, 教授 (20025076)
|
Keywords | 聖書 / キリスト教 / 人間本性論 / 奴隷制度 |
Research Abstract |
南北戦争前の南部人は奴隷制度を擁護するために、さまざまな論拠や権威をもちだした。これらの中、奴隷制度の宗教的擁護論というべきものは聖書の記述をもちだし、神が奴隷制度を是認しておられることを示すことによってこの制度の正当性を主張しようとするものである。この場合、聖書の字句の引用がひとびとに対して説得力をもつためには、その前提条件としてなによりも神の権威の絶対性が根拠づけられていなければならない。そのためには、ジェファソン的な人間本性論の考え方はまっ先に否定されねばならなかった。そして卑小な人間のこざかしい道徳感覚や知識に照らして神意をあげつらったり、疑いを差し挟んだりするべきではない。たとえ人間の道徳感情が奴隷制度を疑問視することがあろうとも、神の律法がこれを是認しておられるなら、これを善なるものとして受容するべきであるという主張が打ち出されることになる。こうした神の絶対性を前提とした上で、「神の言葉がいかに人間の理性の範囲を超えており、人間の感情を驚かせ、人間の良心を不安にする」ものであろうとも、絶対的な信仰をもって神の言葉を信じるべきであるという主張がなされ、また「罪とは律法を犯すことであって、律法の存在しないところには、罪もまた存在しない」という基準が設定される。こうした思想的な基礎作業が整えられた上で、はじめて聖書からの引用も効力をもつことになったといえる。
|