Research Abstract |
酸化鉄含有スラグにおいては,配位子である酸素イオン(0^<2->)から,鉄イオン(Fe^<3+>)への電子遷移による吸収(電荷移動帯吸収)が波長0.5μm付近で観測される.また,この吸収端の波長は,酸化鉄の含有量や塩基度などの変化によって長波長側にシフトすることが知られている.本研究では,(1)スラグの結晶化にともなう光の散乱,(2)鉄イオン(Fe^<3+>)の配位数,及び(3)酸素のイオン屈折と吸収端のシフトとの関連を調べ,吸収端シフトの機構を明らかにすることを目的とした.本年度は,主に(1)と(2)について行った. 酸化鉄を含有したCaO-SiO_2系及びNa_2O-SiO_2系スラグにおいて,(%CaO)/(%SiO_2)及び(%Na_2O)/(%SiO_2)を0.36-1.13の範囲で,酸化鉄の含有量を0-16mass%の範囲で変化させたもの,また10%Fe_2O_3-CaO-SiO_2系スラグにAl_2O_3を9-18%加えたものを試料とした.大気中,1750-1800Kで,白金るつぼ中で所定組成の試薬を2-6h溶解した後,水冷銅板上に急冷しガラス状の試料を得た.試料表面を鏡面研磨した後,分光光度計を用いて3-0.3μmの波長範囲で透過率を測定し,Lambertの式から吸収係数を求めた.Fe^<2+>とFe^<3+>の比,4配位と(6)配位のFe^<3+>の比の決定には,メスバウアー分光法を用いた. 各試料の吸収スペクトルには,酸化鉄の含有量,塩基度,Al_2O_3の含有量の増加に伴って,電荷移動帯吸収の吸収端波長が長波長側にシフトする傾向が見られた.各試料はX線的にアモルファスであるため,スラグの結晶化による光の散乱は吸収端シフトに影響しないと結論した.4配位構造をとるFe^<3+>の数が多いほど,0^<2->とFe^<3+>の電子間の相互作用が小さくなるため,電荷移動帯の遷移に必要なエネルギーが小さくなり,結果として,吸収端は長波長側にシフトするという機構を考えた.しかし,実験的には,6配位のFe^<3+>の割合が増加するに従い,吸収端の波長は長波長側へのシフトするという結果が得られ,(2)の機構は否定された.今後は,(3)について研究を進める予定である.
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