1996 Fiscal Year Annual Research Report
神経細胞および好中球の細胞内情報伝達に及ぼす麻酔薬の影響の研究
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07671667
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
甘庶 真純 九州大学, 医学部, 助手 (60264024)
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Keywords | 細胞内情報伝達 / cFos / 麻酔薬 / PC12 |
Research Abstract |
1 シナプス伝達に依存して、後シナプスニューロンの核にcFosが発現することが知られ、記憶に関係した現象ではないかと考えられている。麻酔薬がこの現象に及ぼす影響について検討した。 ラットの褐色細胞腫由来の培養細胞PC12を用い、KClで脱分極した際のcFosの発現をウエスタンブロットにより調べた。 1)KClでの脱分極によるcFosの発現は、EGTA,ニフェジピンで完全に抑制されたが、ω-コノトキシンでは抑制されず、L-typeカルシウムチャンネルからのカルシウム流入に依存していることが分かった。 2)プロポフォール、テトラカイン、ジブカインは、濃度依存性にcFosの発現を抑制し、100μMプロポフォール、300μMテトラカイン、50μMジブカインはほぼ完全にcFosの発現を抑制した。 3)KClでの脱分極によるcFosの発現には、MAPキナーゼが関与していることが、MAPキナーゼ活性化の阻害薬を用いた実験により示された。 cFosの発現を抑制するプロポフォール、テトラカイン、ジブカインの濃度は、L-typeカルシウムチャンネルを抑制すると報告されている濃度であり、cFosの発現を抑制するメカニズムとして、L-typeカルシウムチャンネルの抑制が推測きれた。ニューロンにおいて、L-typeカルシウムチャンネルは、樹状突起および細胞体に存在するが、軸索には存在しないことが示されている。このことは、L-typeカルシウムチャンネルは神経伝達物質の放出には関与せず、後シナプスニューロンにおける情報伝達に関与している可能性を示唆する。 動物実験では、カルシウム拮抗薬が麻酔作用を増強したとの報告があるが、L-typeカルシウムチャンネル抑制により、後シナプスニューロンにおいて、細胞内情報伝達経路が何らかの修飾を受けている可能性が考えられる。 2 PC12をNerve Growth Factorで分化させ、ニューロフィラメントの伸張にテトラカイン、ジブカインが影響するかどうかを検討したが、細胞に傷害きたす濃度以下では、明らかな影響は認めなかった。 3 PC12において、Nerve Growth Factor受容体から核への情報伝達経路に、ホスホタイロシンホスファターゼ(PTPase)が関与しているか検討を試みたが、使用したassay系では、baseのPTPase活性が低く、検討できなかった。 今後は、L-typeカルシウムチャンネルからcFosへの経路の一つとして考えられるMAPキナーゼヘの麻酔薬の影響をさらに検討していく計画である。
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