1995 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
07710036
|
Research Institution | Kanagawa Prefectural Museum of Cultural History |
Principal Investigator |
塩澤 寛樹 神奈川県立歴史博物館, 学芸部, 主任学芸員 (60162567)
|
Keywords | 平安彫刻 / 東国 / 十一世紀 |
Research Abstract |
本研究の目的に沿い、対象作例の調査に基づき基礎データを作成し、その結果得られた知見は次の通りである。 まず、東国における十一世紀初頭の古様な状況を理解するため、福島・勝常寺の薬師如来坐像をはじめとする諸像、同・大蔵寺千手観音立像、宮城・双林寺薬師如来坐像などの九〜十世紀作例を比較のため、略調査をした。 その上で、従来古様を残す十一〜十二世紀前半の作とされていた茨城・薬王院薬師如来坐像の調査を行った。その結果、作風・構造はむしろ宮城・双林寺像のような十世紀作例との共通性が強く、十世紀制作の可能性をも残す十一世紀初頭を下らない作と考えられるに至った。また、千葉・正延寺五智如来坐像は、若干穏やかさが加わりながらも、構造・作風に十世紀の余風を残す十一世紀前半の状況をよく示す好例と考えられた。像種の希少な点でも注目され、今後東国平安彫刻史上重視される存在かと思われる。 神奈川・影向寺二天立像は、これまで年代不詳とされることの多かった作例である。しかし調査の上、構造・作風両面の検討から十一世紀後半の作と見て問題ないと考えるに至った。また、山形・熊野神社に伝わる本地仏三躯は従来余り知られていない作例であるが、十一後半の作と見られることを確認すると共に、一躯は平滑に、一躯はいわゆる鉈彫に、一躯は小作り段階に近く仕上げられており、鉈彫像の問題を考察する上でも重要な事例を提供するものと考える。また、従来十二世紀作とされてきた千葉・松虫寺薬師如来坐像も、構造・作風ら見て、十一世紀後半制作の可能性も検討すべきかと考えられた。神奈川・真福寺千手観音立像は、作風上穏やかさが勝り、十二世紀の作とも見られるが、構造に古様な特徴が目立ち、十一世紀末〜十二世紀の制作と考えておきたい。なお本像は当初四臂像であったことが確認され、名称については再検討を要すことも明らかになった。
|
Research Products
(1 results)