1995 Fiscal Year Annual Research Report
ローレンス・スターンの説教集におけるセンチメンタリズムの研究
Project/Area Number |
07710330
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Research Institution | Gifu University |
Principal Investigator |
内田 勝 岐阜大学, 教養部, 講師 (00213447)
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Keywords | 英文学 / 18世紀 / Sterne, Laurence / スターン.ローレンス / 説教 / 小説 |
Research Abstract |
ローレンス・スターンの『ヨリック説教集』の内容には、18世紀イギリス国教会の主流だった「広教会主義」の宗教観が顕著に現れている。その創始者であるカンタベリ-大主教ジョン・ティロットソンの説教をみると、そこでは17世紀の宗教内乱への反省から、宗教的な熱狂や神秘体験を否定した、理性による宗教が説かれている。その文体は極めて論理的な、無味乾燥といってよいものだ。 一方、スターンが国教会の牧師として活動した18世紀の半ばから後半は、メソジスト派が台頭した時代でもある。その代表的な説教者ジョージ・ホイットフィールドの説教を見ると、そこでは聖書のテキストの一節から劇的な物語が作り上げられ、感情的な口調で、宗教的熱狂や神秘体験が語られている。 それを踏まえた上でスターンの説教をみてみると、内容的には理性重視、宗教的熱狂批判といった広教会派の特徴がみられるものの、そこで使われているレトリックは、本来の議論から脱線して、聖書の一挿話をあたかも小説の一場面のように劇的に、熱烈な口調で語ることによって、聴衆や読者を感性の側から説得しようとするものであり、むしろスターンが批判しているはずのメソジストたちの説教に近いものがある。 何の変哲もないテキストや事実の断片を手掛かりに自由な空想を加えることによって、感情に訴える豊富な意味を引き出すそのレトリックは、のちに彼が小説『センチメンタル・ジャーニ-』などで用いたものである。しかしむしろそうしたレトリックが彼独自のものでなく、主にメソジスト派の牧師による説教で広く用いられていたらしいことは、スターンのセンチメンタリズムの起源を探るうえで重要な事実であろう。さらにデータを集めたうえで、次年度には研究成果を論文の形でまとめてみたい。
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