Research Abstract |
近年,MRI(magnetic resonance imaging)の普及により,神経学的には無症候の無症候性脳梗塞,潜在性脳梗塞(SCI)が頻回に発見されるようになった.SCIは将来卒中発作を起こして,脳血管性痴呆を起こす危険性が高いと考えられている.しかし,無症候性とする根拠は,神経学的診察で異常所見を示していないということであって,精神医学的視点からは,精神症状が梗塞巣に関連している可能性は否定できない.そのため,SCIの精神医学的側面,特にうつ状態,躁状態との関係に焦点を当てて,検討を行った.対象は,50歳以上にて感情障害を初発し,今回初めてmaniaを呈した患者20例をlate-onset maniaとした.対照群として,年齢,性別を一致させた50歳未満に発症した感情障害患者をearly-onset affective disorder,50歳以降に発症した単極性うつ病患者をlate-onset major depressionとし,SCIの合併率,脳梗塞部位についてlate-onset maniaと比較検討した.なお,うつ状態,躁状態の診断はアメリカ精神医学会による精神障害の分類第3版改訂版(DSM-III-R)のmajor depression, manic episodeの診断基準を用いた.但し,卒中発作,局所神経症状が存在し,明かな脳血管障害の既往がある患者は対象か除外した.late-onset maniaには65.0%にSCIの合併を認め,early-onset affective disorderの25%より有意に高く(p<0.05),より脳器質的要因が強いことが明らかになった.SCIの部位について,late-onset maniaの50.0%に混合枝型梗塞を認め,この割合はlate-onset major depressionの15%より有意に高く(p<0.05),より広範な脳器質的障害を持っていた.つまり,SCIに伴うmaniaはSCIがかなり広範に出現して初めて出現する症状であり,軽度な障害においても出現するdepresssionとは意義が異なるものと思われた.
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